Jun潤

ぬけろ、メビウス!!のJun潤のレビュー・感想・評価

ぬけろ、メビウス!!(2022年製作の映画)
3.8
2023.02.07

ポスターを見て気になった作品。
予告編やタイトルから察するに、変わらない日々からの脱却を描いた作品の様相。
もしかして大好きなダメ男が出てくるかもしれないし、平均スコアも高いので期待値高めで鑑賞です。

優子は契約社員として働いていた。
同じ会社で働く幼馴染の奈月は正社員になるために勉強を始めるし、恋人の太一はプロポーズもしていないのに母親が式場の準備に張り切るし、会社の社長からは契約社員の5年ルールを理由に契約打ち切りを言い渡されるし……。
優子はその場しのぎか思うところがあってか、大学進学への決意を表明する。
しかし太一も奈月も理解してくれないし、母親からは反対され、勉強をしても偏差値はなかなか上がらない。
そんな時偶然、3週間のバカンスに来たと言うイケメン・瑛斗と出会う。
まるで映画のような出会いと交流に舞い上がる優子。
太一そっちのけで、名前や学歴を偽って瑛斗とのデートを重ねる優子は、奈月と共に自宅でのバーベキューに誘われる。
そこで瑛斗の両親と奈月の間に不和が生じるが、瑛斗から交際を求められる。
果たして優子の人生の行く末は!?

うーん、いや面白かった、面白かったですよ?
テンポもいいしメリハリも効いてるし、登場人物やセリフの一つ一つにクセがあって、全く観飽きることのない作り。
しかし大学進学や環境に甘んじたり無理矢理変えようとしたりすることには個人的に思うところがあり、、詳細は後述。

表と裏を行ったり来たり、同じところをグルグル回るメビウスの輪のように、変化の無い日々に不満は無いながらも何か変わるきっかけを求める優子はザ・等身大な20代半ばの女性。
さらにはプロポーズしない癖に優子の母のお店や実家に入り浸る太一、結婚や目の前の仕事だけを押し付けて、進む道を変えようとする優子に理解を示さない母親など、ダメ男や毒親とまでは言わないけど、描写だけで面倒臭さが伝わってくるキャラの造形。
そしてそんな日々を変えてくれる、瑛斗という良くも悪くも刺激的な王子様との出会い。
田舎にいる普通の人たちとバカンスに来ている上流層の親子の対比がまた良い。

優子と瑛斗も、あの親にしてこの子ありといった感じで、作中で言及されていたように、変えられない環境に、巻き込まれたり甘んじたり、もうどうしようもないかもしれないけど、変われるチャンスは逃したくない。
漫画みたいに上手くいかなくても、変わるチャンスをしっかり掴んで、頑張ってやり切った経験を人生の糧にするというのは、誰かしらに刺さるメッセージでもあるし、観ていて元気になる作品でした。

メビウスの輪から逃れようと、歩きながら断ち切ろうとすると縦に切れてどんどん捻れて拗れていくばかり。
じゃあどうするのかは単純な話で、縦ではなく横に切れば、真っ直ぐ続く道に早変わり。
道の先は見えないかもしれないけれど、それでも何が起こるかわからない人生に向かって歩んで行ける。



さて、ここからは持論の時間です。
まず真っ先に気になったのは、教師という昔の夢を思い出しても、大学進学を教師になるための手段ではなく自分の努力のゴールにしてしまう優子。
これは僕も現役時代に悩んだ経験があり、やっぱり大学進学はゴールではなく、その後の人生について考える時間やきっかけを作る場、スキルや知識を学ぶ場であるべきなのに、なーんかそこは引っかかる。

あとは大学に行ってたとしても短大でも専門でも、学歴ではなくその環境下で何をしたかが一番大事なわけで。
それに卒業した後となっては学歴は変えられないけれど、それならそれで持っているカードを切るしかないんですわ。
優子の母もそれっぽいことを言っていましたが、環境や周囲に原因がある、それが本当のこともあるけれど、環境を受け入れたのが甘えでも苦渋の選択でも、人生の歩みを止めていい言い訳にはならんと思うのです。

思い返してみれば僕の人生で変わらない毎日がずーっと続いた期間があった覚えはなく、波瀾万丈とまではいかなくてもメビウスの輪になったことは無かったですね。
それは環境を変えてきたこともありますが、やっぱり自分が今いる場所で何ができるのか、何ができないのか、自分のやりたいこと、望むことのためにどこに行けばいいのかを考え続けてはいました。
前に進むだけじゃありませんでした。
横道に逸れたり後ろに向かったり。
でも歩みを止めた覚えもありません。
メビウスの輪の上を歩き続けてもいいけど、とりあえず歩きながら中途半端に変えていくんじゃなくて、周囲の理解を得られても得られなくても、一旦立ち止まってでも、思考という歩みは止めず、縦ではなく横に輪を断ち切ることも、それが自分の人生のためになるならいいんじゃないかなって、今作を観て改めてそう思いました。
Jun潤

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