ネノメタル

極道系Vチューバー達磨のネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

極道系Vチューバー達磨(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

Ⅰ.ファーストインプレッション
(2020年7月末の海道力也映画祭にて)
前評判というか、事前に見たキャストがダンスしているミュージックvideoであるとか、SNS等で発表されるメイキングで垣間見るキャストのヴィジュアルイメージなどから「極道系893がYouTubeを始めたよ!」的な当たり障りのない思いっきりコミカルに振り切った話かと思いきや、任侠の世界で生きるガチの893が自己に向き合い、仁義を尽くしつつ動画配信を一体始めたらどうなるのだろうか、というリアリティ要素も確かにあって、途中のめちゃくちゃシリアスな展開には圧倒されてしまった。
これ例えるなら、ふつうのラーメンを食べに行った所、豚の丸焼きから始めてそこから焼豚を出してくれたり、麺は刀でシャッシャッシャッと削り出すパフォーマンスがあったり、あとスープは大鍋で鶏ガラ豚骨だ煮込んだ本格的なものだったりディテールがガチ過ぎて驚いたみたいなそんなエクストリームな展開だったのだ(←逆にわかりにくいわっw)

このシリアスとコミカルのバランスは、シリアス7割コミカル3割ぐらいの絶妙な感じで個人的にはコミカルすぎるのは見てて疲れるので丁度いいバランスだったな。でもこういう絶妙なキャラクターのバランスが成立しているのは他ならぬ、あの主演俳優・海道力也氏の力量に他なるまい。
 何せあの方は、あの怪作にして超弩級の問題作『ドスえもん 』において、タイトルに近しいなんとかプロダクションの元ネタ周辺に一瞬すら気づかれたらヤバイだろ的な、何故か観る側の我々の方がヒヤヒヤしながらも謎のスリル感に苛まれながらも、主人公の邪悪さ・下劣さが半端なさすぎて寧ろ客席を爆笑させつつも、どこかしら主人公・ドスえもんから滲み出るピュアさと(まさかの)可愛さとを両立できるほどの怪優だ。
だって『コケシセレナーデ』の舞台挨拶の時に初めてお会いした時「ネノメタルさんはTwitterでは"お友達"になって頂いてますか?」と私に問いかけたのだ。
なぬ、【お・と・も・だ・ち???】なんなんだwwwww
なんと可愛らしい響きよ!!!
でもあのコワモテのお顔から発せられる「おともだち」なる響きをなんの衒いもなく発するこのギャップ、、、これこそ彼の魅力の一つなんだろうなと妙に感心したものだったのも事実で。
こんな人見た事ないよ、マジで。

あとは、色んな濃いキャストがいるなかでもヒロイン・鈴木まゆの役は無茶苦茶切れ味のある役で完全に釘付けだった。もう死ぬほどカッコいい。
で、その鈴木さんが当時ツイートしていた通り「濃いキャラ達がごったがえしててうるさい。」との事だったんだが、確かにそれは否定はできない。
でもこの作品裏を返せば、濃いキャラ全員ということは海外の某DCみたいなアメコミヒーローものばりに「全キャラ・フィギュア化可能」だとも言えるわけで、仮に海道さんのフィギュア絶対売れそうですな(手足がとれて達磨仕様にもなったりして...www)
さあ、figmaさんあたり目を付けてくれないだろうか、とか本気で思ったりしてます(笑) 

Ⅱ.2020年観て残念な点
正直に言いまーす!
で、残念だった点も上げとくと2点である。(2022年12月時点でもあまり変わらんので残しておくw)
一つは『コケシ・セレナーデ』のスピンオフ的にあのこけしコレクターの桜井さんの奥さん役、桜井萌々花がYouTuber(Vtuber)として出るとの事だったんだけど、全くそんなYoutuber感はなくて単なる通りすがりの人みたいな印象しかなかった点。でも『コケシ・セレナーデ』の結末を拡大解釈すると案外亡霊として達磨の運命を知ってる人だったりしてとか考えたらしっくりくるんだけど。
もう一つはあと全体的に任侠ものとしてはしっかりどっしりど迫力だったんだけどネット界隈の描写が非常に陳腐な印象があった点。
そこには視聴者も2、3人ぐらいしか映らなかったし炎上してる場面でも本当に炎上してるのかどうか、任侠に比べネットにおけるリアリティが個人的にはよくわからなかった、というのが正直な感想である。
とはいえ、本作を見たのが7月末の海道力也映画祭での修正の余地のある「特別公開」的なスタンスだとの事だったので、いずれ本格公開になればこの辺りもっとしっかりreviseしてバランスの良い作品に仕上がる事だろうなと期待している。

気になった点はその二点だけで、再鑑賞の価値も十分にある見応えのある作品。
いや、再鑑賞どころか5回は観ます(笑)

海道さん、、いや達磨さんたちにまた会いましょう!
と言いたい。

Ⅲ.達磨again(ここからは2022年3回観た感想です!)
とそれから4ヶ月、色々と紆余曲折を経てあの極道たちが帰ってきた!初回よりもリファインはあったのだろうか?
極道達の生々しいまでのヤクに溺れた攻防戦とvチューバーと配信閲覧者達のユルユルのゲーム配信と父親の弔いに刃を研ぎすます一人娘という3方向から展開するマルチバースが同時進行しそれらがあの衝撃への結末へと収束する様は鳥肌もので、更にテンポ感が増した気がしたかな。
これはたとえそうだとしても初回鑑賞時に比べエンタメが復興しつつある2022年冬に観たというタイミング的なものもあるのかもしれない。
その意味で本作は今まで溜まった我々の心のヒダを全力で洗い流すと同時に関西インディーズシーンの底力を見せつけてくれる快作だといったスタンスに位置付けられる役割を担っていると言う事も多いにあり得るのかもしれない。

Focus①.海堂力也(as vチューバー達磨)
それにしても話は戻るが主役の達磨こと海道力也。彼の義理人情に溢れた893もチャーミングなvチューバーも全てが普段舞台挨拶の気さくな彼と連動しているようで松本大樹監督は実はヤクザもvチューバーも取っ払って彼の人間性を浮かび上がらせる事が目的だったのではないかと思ったほどだ。本作数回観た上でのテメエ仮タイトルは【海道力也のすべて】だったくらい。
それにしても極道もYoutubeもグロも家族愛も笑いもギャグもアクションも全てを達磨色に染める海道力也の人間力には感服せざるを得ない。

Focus②. 鈴木まゆ(as 梶原メイ役)
あと観れば観るほどやさぐれたヒロイン梶原メイ(鈴木まゆ)に徐々に惹かれていく作品でもあって、彼女が颯爽と黒のライダース着て刀投げ捨てて仇を打ちにいくシーンもうあれなんなんすかってくらいシーンがカタルシス級でカッコいいのだ。
彼女の場合台詞という台詞がほとんどなくて「達磨は?」とか「キモいんだよ」とか「(海は)嫌いです」「ふざけんなよ」とかほぼ一言レベルなのだがその少ない台詞やそれを発する表情から醸し出されるニュアンスというのも汲み取れるようにもなってて逆に彼女の表現力というものに感嘆させられる。てかあの海辺のオシャレなカフェでフルフルチキンだかフリフリチキンだか忘れたが、グリルチキンをさもヤケクソにかっ喰らうシーンなぞもう最高最強最狂だったなw
あんだけ女優さんで人間の複雑なあらゆる感情をぶち込めた狂気じみた食い方する人いないよ。あのシーンのポストカードを売ってくれ、100枚くらいデスクトップpcに貼っておきたいから。
 いや、これマジで思うんだが日本の女優でハリウッドのアクション映画ではスカーレット・ヨハンソン的な女優ばりにヴァンプな要素もありつつクールなカッコ良さを表現できる人ってほんとレアと思う。そしてそんなカッコ良さから一転してその例の海辺のカフェでのそれまでの感情を押し殺して敢えてこその清楚に装ったあの格好や表情からは逆に敵討ちをしようといいう覚悟が伺えるし、瞳の奥に宿した心の叫びみたいなものを感じて切なくもなったな。
あとこれは舞台挨拶での松本大樹監督の解説で判明したのだが、例のグミを万引きして一回コンビニ店長から補導され、その後も認知されてるんだが、ここのコンビニ以外にもグミなどどこにでもあろうに、なぜあのわざわざ捕まったあのコンビニに行くんだろうと言う疑問点がふっと繋がったりした。ハッキリ言って彼女も誰かに構って欲しかったのだ。どこか彼女も父親という存在を失って以来、父性の愛に飢えていたのだと思うし、万引きした際警察沙汰にしなかったあの店長に感謝している筈なのだ。そしてあのコンビニ店長も同じように彼女に対して自分の家族の状況を投影しているようにも思えたりして。
その証拠として、彼のスマホに自分の娘の写真を待ち受けにしてる場面があるのだが、それが恐らくメイと同い年ぐらいの若い女性であって、何となくそういう意味でどこかしらシンパシーを感じていたんだろうと思う。もしかしたらではあるが、彼は離婚かなんかしてあれぐらいの歳の娘を育てきれなかった事に何らかの後悔の念があったりするのかもしれない。
まぁ、いずれにせよ梶原メイに関してはもっともっと個人的に色々と考察したい要素がザクザク溢れている。それぐらい謎めいていて、魅力的な役柄だ。
マジで監督にも直接お願いしてるが梶原メイを主人公としたスピンオフ作品「(仮)メイ外伝」是非いずれお願いします、あとその際には「梶原メイ・アクリルスタンド」の発売も立っているライダースパターンと私服で座ってるパターンと2ver.重ねてお願いします、いやもう絶対売れるよ(笑)

Focus③ 火の鳥・鳳凰編
そして4回目にしてふと気づいた事がある。ある昭和を代表する超有名漫画家の、彼自身「ライフワーク」として位置付け、シリーズものになって今も尚色褪せない不朽の傑作との共通点を嗅ぎ取ってしまったのだ。
これは松本大樹監督に質問した所、見事に当たってたから断言しよう。
そのタイトルは手塚治虫氏の傑作『火の鳥』の中でも最高傑作とまで評する人もいる『火の鳥・鳳凰編』である。
この話の主人公である我王は達磨と同様ヤクザもので超絶的な荒くれ者だ。
てか子供だろうが女性だろうが片っ端殺しまくっているいわゆる「殺人強盗」なので達磨の百倍以上タチが悪いヤツなのだが、やがて彼は捕らえられ、処刑寸前になりつつもある僧正に救われ出家し彫刻家としての才能を見出される。
とこの話を聞いて時代が奈良時代とかその辺故に「え?どこが?」と思われるかもしれないが我王には元々幼少期からも不慮の事故で片目と片腕を失っている達磨的ルックスである事に注意したい。そしてやがて彫刻のライバルとなる茜丸からも片腕を切り落とされる、言わば最終的には完全に達磨的な様相に変貌するのである。しかも手塚氏の漫画を見ていただければ分かりやすいのだが、我王の見た感じも大柄で髭を生やした強面風だしで、雰囲気では達磨と非常に似ているのだ。あと我王にとっての彫刻は怒りを筆頭に彼の中にある様々な感情をぶつける手段でもあるのだけれど、これがさながら達磨にとってのvチューバー活動ともそっくりトレースできたるするし。これは強引な結論かもしれないが我王にとっての彫刻も達磨にとっての配信活動も過去への贖罪的なニュアンスだったものが人生観をぶつける手段へと変貌していく過程とかほんとシンクロしている。結局どちらも両手を失ってからも各々のアイデンティティ活動を継続してるし。それと最も大事なのが我王も達磨も「どこか強さを装った背後にあるナイーブさとそのコアにあるイノセンスとが同居してしているという意味で本当シンクロするのだ。最終的には茜丸を慕ってたブチは野上照子のスタンスって感じだろうか、野上幸子も達磨に結構好意を抱いてたしね。

Ⅳ その他、もろもろ
それと他にも印象に残った役者としては白康澤宏氏の古参宮川さん役はパッと見柔和であり義理人情要素強めの893という印象だったんだけど、とある場面で瞳孔がパッと開いて視線がギラっと光る瞬間があってそこにある種のカタルシスを感じていた。正に極道の人のリアリティってこういう所にあるんだなと思っていた。
昨日それをお伝えできたのが本当に嬉しかった。
この宮川に関して白澤氏によるとTwitterにて以下の回答を頂いた。
【松本大樹監督の演出意図普段は日常の中に居心地悪く生存している古参が、いざという時には死地へと赴く腹が決まっている人物、先代の元には三船達磨はじめ仁義を体現する漢たちがいたんだというところを描きたかったのではないか】
という事。

なるほど、本作がエンターテイメントとしての領域に留まらず極道のリアリティまで細部に渡って研究され尽くされている事を示唆するエピソードである。『みぽりん』も完全にアイドル業界のコアを撃ち抜いている作品だったし松本監督のポテンシャルたるや凄いなと思う。

あと最後の最後、これはレビューでも何でもないんだけど舞台挨拶時、主演の海道力也さんが本作のキッカケとして最初は短編だったらしくて「松本監督は当初、“オレがずっとしゃべり続ける短編映画を撮ろう”って言ってたんですよ。」ていうのが何故か「しゃぶり続ける」と言い間違えたの腹筋崩壊&呼吸困難レベルで笑った。
もう帰りの電車の中でも、2週間経った今でもだいぶ思い出しては引きずっている。
観てみたいわ〜達磨さんが延々何かをしゃぶり続ける短編、いや長編作品。
しゃぶり続けるのはまさかの「グミ」だったりしてなw

にしてもfilmarksレビューで既に5000字超えとはどういうこっちゃ。
これは関西インディーズ映画が2022年の年末ラストに放つエンタメの意地と真髄の極地だというGrand conclusionをブチ込めて本レビューを締めくくりたい。
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