MasaichiYaguchi

私はいったい、何と闘っているのかのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
つぶやきシローさんの同名小説を安田顕さん主演で李闘士男監督が実写映画化した本作は、生き方が不器用だが、仕事と家族にひたむきに愛を注ぐ主人公の中年男性・伊澤春男の姿を笑いと哀愁を交えて描いていて強く共感してしまう。
私も春男同様に地元密着型スーパーでアルバイトを含めて働いていたことがあるので、その職場での人間関係やそこで起きるトラブルを本作はリアルに描いていて思わず当時のことを思い出す。
春男は店の最古参で一応「副店長」の肩書を持っているので、私的にはマネジャーという感じなのかと思うが、何処の業界でもそうだが、中間管理職は心身共にストレスは溜まるし、疲れて大変だと思う。
そんな勤続25年にして万年主任の春男に店長昇進の話が浮上する。
この店長昇進のエピソードの顛末は、私を含めた中年男性で春男と同様な「経験」をした人は少なからずいると思う。
本作では仕事を軸としたスーパーでの展開と、妻、娘2人、少年野球をしている長男という愛する家族を軸とした物語が繰り広げられる。
家族の物語では、長女の彼氏を巡るエピソードが笑いと涙を誘うが、一見、普通の5人家族のような伊澤家だが、随所に挿入される過去の断片によって、この家族が如何に形成されていったのかが少しずつ分かってくる。
特に終盤へ向かう沖縄旅行の前後を含めたエピソードは、春男という人物に対して好感とシンパシーを抱かずにはいられない。
だからラストの方で春男に渡される色紙に書かれた言葉は、恰も彼を含めた我々に対するエールのように思える。
コロナ禍による不況で社会がギスギスし、ソーシャルディスタンスで人との距離が出来てしまったこの頃、本作は人にとって本当に大切なこととは何かを改めて我々に提示してくれているような気がする。