YM

最後の決闘裁判のYMのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
-
虚栄と権威欲に取り憑かれた男と、色欲と傲慢、狡猾さに身を染めた男と、人として生きたい女。
それぞれにとっての真実があり、その真実は他者にとって嘘で塗り固められた姿でもある。自分の中で自分だと捉えている自分の姿は、隣にいる人の視線で見たら怪物かもしれない。さらにその外側から観たら滑稽なピエロかもしれない。
それでも我々は、今発言し行動する自分を自分にとって都合の良いように捉え、生きて、死ぬ。人間は愚かだと冷笑しても、失望しても、結局他者を見る色眼鏡よりも自分を見る色眼鏡の濃いことから目を背け続ける。

どれが真実かということを、ここで一番弱い人間に託したことがこの映画の良心だが、こんな裁き方が溢れた時代にどれほど理不尽な理由で裸で焼かれた人がいただろう。「それ」を持つ人間が都合の良い「真実」を流布してまわり、命を喪わずとも魂を世間に焼かれ生きる人もいただろう。
これは時代劇ゆえの蔑視や暴力描写か?
いや、たしかに今に続く物語であった。
今焼かれるかもしれない人、馬の方が早いが牛を使わざるをえない人、自分の進退を決めることすら許されない人、当然だからと隷属を選ぶ人。あなたを踏みつける「それ」は何か?
そして、「それ」を欲するあまりに他人を踏みつけることを善と信じている人、「それ」を手に入れるため誰かを欺く人。
あなたが焦がれる「それ」は何か?を激しく問われ、揺さぶられる。

それぞれの細かな視線の動き、微笑み、息遣いさえも 意味を持ってしまう、意味を持たせてしまうから、この映画のつくりはすごいと思った。感嘆です。画面がずっと絵画みたいに決まってるのもすごい。
観てよかったと思うが、観なけりゃよかったとも思う。
特に女性は、ある程度情報を入れてから観ないと、かなりキツいです怖いです。実際かなり怖かった。

最後の決闘 何と闘っているのか 誰と闘っているの 誰が闘っているのか
YM

YM