ShinMakita

最後の決闘裁判のShinMakitaのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
2.4
フランス、1380年代の終わり…
従騎士ジャン・ド・カルージュとジャック・ル・グリは、共にイングランド相手に剣を取る戦友であった。しかし領主ピエール伯の覚えがめでたいのはジャックの方で、ジャンは出世を阻まれ地代も厳しく取り立てられて辛酸を舐めることになる。そんなジャンには、最高の美貌を誇る妻マルグリットがいた。戦地で武勲を立て、騎士となって給金も手にし、遠征から戻った時、ジャンはマルグリットから衝撃的出来事を告白される…

「最後の決闘裁判」

以下、最後のネタバレ裁判。


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本作は、3つの切り口から語りたくなる映画でした。すなわち「リドリー・スコット」「Me Too」「羅生門」、ですね。


リドスコ映画を〈光と影の魔術師系〉と〈娯楽スペクタクル系〉と〈リアル・人間ドラマ系〉と乱暴に分類すると、本作は三番目。「悪の法則」「ゲティ家」に連なるもので、歴史モノでありながらスペクタクル系ではないというのが異色。劇中で描かれるイベントよりも、キャラの深掘りがウリになるのがリアル・人間ドラマ系の特徴です。本作ではジャン、ジャック、マルグリットの3人が章ごとに主人公となってコトの顛末が語られていくんだけど、そこで各人の背景・性格・思考がキチンと描かれていきます。人間ドラマ系は、娯楽映画的カタルシスを提供することを拒むのが特徴で、どれも観たあと疲労してモヤモヤした気分になりますね。本作も、決闘は白黒つくけど、「それで良かったんだろうか」という思いが頭にこびりついてしまうという…何とも困った映画でした。

現段階で「俺的2021年ベストワン映画」にしようかと思っているのが「燃ゆる女の肖像」。本作も「燃ゆる…」と通じるテーマを扱っていました。女性の権利が踏みにじられていた時代を背景に女性主人公が声を上げるというのはもはや映画界のトレンドなんだけど、これを80過ぎの男性監督が描いているのは少し驚き。ただ、リドスコは「テルマ&ルイーズ」で束縛された女性たちの解放を描いているし、そもそも「エイリアン」で女性のアクションヒーローを生み出しているわけで、かなりフェミニストなのかとは思うけどね。そんな女性映画でありながら、対する男たちの描写がステレオタイプではなく等身大でフェアなのが、素晴らしい。

作劇的には、監督も認めている通り「羅生門」フォロワー映画ですよね。羅生門みたいな映画って、ヘビーな物(ベルトリッチの「殺し」)からライトな物(メグ・ライアンの「戦火の勇気」)までたくさんあるけど、本作はかなりダイレクトに影響を受けている印象。視点が変わることで真実が歪んでしまうというプロットで、その歪みがサプライズ効果になる…と普通の娯楽映画ならやってしまうんだけど、「最後の決闘裁判」は視点が変わっても真実(セリフの内容や行動)は同じで、当事者の感情だけがズレているんです。その微妙な差を生むのが上手かったですよね。例えばマルグリットのレイプシーン、2章と3章の1番大きな違いは、行為中のマルグリットの顔。言葉でも行動でもなく、彼女の表情アップをしっかり映し出すだけで、強姦か和姦かの差をより明確にしています。ジャンとマルグリットの会話の温度差も1章と3章から浮き彫りになってましたよね。もっとも分かり易い最初の突撃では、ジャックとジャン、どちらもお互いのピンチを救っているんだけど、二人とも「自分が救った」場面しか語らないのが、「必ずしも映画が真実を描ききっているとは限らない」という羅生門の発明をしっかり継承している気がしました。


もちろんクライマックスの決闘の迫力や舞台の再現度、音楽、全てが劇場で観るべきクオリティなのは間違いないですよ。是非とも観るべし。
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