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最後の決闘裁判のレクのネタバレレビュー・内容・結末

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

リドリー・スコット監督作品は『グラディエーター』などの歴史スペクタクル超大作が好きなのですが、本作『最後の決闘裁判』では歴史的な背景を生かしたミステリードラマ。

本作『最後の決闘裁判』は、14世紀末のフランスで実際に行われたフランス史上最後の決闘裁判を題材にしています。
強姦にあった女性の夫が加害者を訴え、証拠不十分ということから被害者の夫と加害者の一騎打ちの決闘で判決を下すという流れが縦軸。

それぞれの話の食い違いは然程なく、それでいて物語の結末で驚きの真実が明かされるような派手さもない。
同じようなシーンや同じ物語を3人の視点で振り返るだけ。
なのに、全然飽きず、めちゃくちゃ面白い。
この面白さの理由はそれぞれの考えや思い込み、そうであるという揺るがない感情などを下敷きとして、彼らの主観で描かれるから。

男どもが如何に自分本位に視点を歪めていたのかがわかるし
三幕を比較し些細なシーンの違いを見つけることで、彼らがその時にどう感じているのか、どう見えているのか、どう振る舞っているのか、見えないものが見えてくる。

三幕構成でありながら、黒澤明監督の代表作『羅生門』の構成と同様にそれぞれの視点から物語を繋ぎ合わせる妙。
正確には黒澤明が『藪の中』を組み込んで再構築した『羅生門』で、原作者である芥川龍之介の『羅生門』とは異なる。
構成自体は原作『藪の中』と同じ。

この『藪の中』と同様の構成を使ったことへの皮肉がすごいんです。
本作『最後の決闘裁判』では真実は既にそこに在るのだから。

性被害に対する見方。
たとえ訴えを起こしても、誘ったのではないか?など確証のない理由をもとに訴えそのものを捻じ曲げようとする。
はたまた、冤罪を恐れて聞く耳を持たなかったり、証拠を出せとセカンドレイプが行われてしまう。
真実がたとえ明白であっても、たったひとつの真実しかなくても、異なった視点で事実は違ったものに見えてしまう、真実が歪められてしまうということが如実に語られている気がする。

それから、女性が声を上げても、信じてもらえない、受け入れてもらえないからこそ、女性自らが手を下さなければならなかった往年のリベンジもの。
14世紀末のフランスを舞台とした本作『最後の決闘裁判』では、過去の物語がその現代のリベンジものから一歩先へと踏み込んだ物語となっているのが素晴らしい。

夫は自身の尊厳のために妻を巻き込みながらも、男性が男性とケリをつけるという構図は"女性が声を上げること"の重要性を問うひとつの形ではないかと思う。

なぜなら、納得する結果が出ないから声を上げない。
それでは男性優位の社会で抑圧された義理の母と同じ選択をすることになる。
結果はどうあれ、声を上げても何も変わらないかもしれない世の中(時代)でも、こうして声を上げることで少なからずその状況は変わったのだから。

本作『最後の決闘裁判』は、そんな現代にも通ずる"女性への抑圧"に対するアンチテーゼとなり得るのではないだろうか。
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