蛇らい

最後の決闘裁判の蛇らいのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.1
構成と主題へのアプローチの巧妙さもさることながら、映画史における、他意なく消費されてきた性差描写の回顧にもアクセスする。俗に言う映画的な快楽は、客観性の欠如した男性性の負の遺産であることを作劇の中で立証し、それらは常に女性の心身の搾取と暴虐の犠牲の上に成り立っていたことを突きつける。また、三幕とも同じ時間を切り取り、三者の出来事のへの感じ方の違いを鋭くオープンに語りかける。

決闘や戦のシークエンスのダイナミズム溢れるアクションに血がみなぎるわけだが、そうしたカタルシスさえも…という逆説も皮肉が効いている。至高のアクションシーンが説得力を増大させる。

劇中のレイプ事件は、当事者しか知る術すべのない真実があり、決闘裁判のオーディエンスにもちろん実際の神様は座っていない。では、誰がこの作品における神なのかと言えば、事の顛末を傍観する我々観客である。現実では様々な事象に対して、映画のシーンのようにハイライトされるわけではない。我々は映画ほどの想像力を常に働かせる意識でなければ、無意識のうちに誰かを傷つける可能性を持ち合わせる生き物であるのだと考えさせられた。

ラストシーンで群衆が勝者に歓声を上げる様もまた、映画を堕落した意識の中で観る我々であり、目が覚める。それを見つめる虚無の表情をしたマルグリートがすべての意味を内包する饒舌なラストカットで幕を閉じる。
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