真一

LAMB/ラムの真一のレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.0
 羊人間(ひつじにんげん)の親権を人間と羊が争うという、北極圏の孤島アイスランドを舞台にしたからこそ成立した、鬱くしくもイカれたファンタジー映画。ひねりの無さすぎるベタな展開だが、絶海の孤島アイスランドのストーリーだから許される。それどころか、荒涼としたアイスランドでは、当然のように羊人間が生まれているのではないか、これってリアルなんじゃないかと思わせる雰囲気さえ漂わせる作品だ。
 一人娘を失った夫婦が、羊人間を我が子のように可愛がる描写には胸がジーンと来た。生きる希望を失いつつも、羊飼いとして黙々と暮らす夫婦にとって、あたま羊でからだ人間の子供が神様からの授かり物に見えるのは当然だ。自然と感情移入できた。
でも奥さんが、羊人間アダの生みの母親(普通の羊)をライバル視し、ついには銃で「暗殺」してしまうのには、ドン引き引した。この羊殺しは共感できない。抑制の効いた、行間を読ませる北欧映画にしては、この展開が急すぎるし、かなり謎過ぎる。
 そうした謎展開はほかにもあったが、すべては「アイスランドで起きたことだから」と考えれば、合点がいく。とにかく夫婦が住む一帯は、針葉樹さえ一本もない極寒のツンドラ地帯。あるのは、山と雪とツンドラと羊の群れと自分の家と夫(妻)だけだ。町に出ることもなく、夫婦は毎日同じように羊の世話をして暮らす。変化のない暮らしが、延々と続く。大自然に囲まれながらも、生活圏としてみれば完全に「閉ざされた世界」だ。そりゃあ、見えないものが見えたり、生まれないものが生まれたりするのもむべなるかな、と思った。
というわけで、羊人間アダには妙なリアリティーさえ感じた。暖かそうな青いセーターを着て、パスタを皿に装うとしていたアダは、たまらなく可愛かった。でも、この子は授かり物だと思うその感情が、ストーリをバッドエンドへと導いていく。それも、どんよりとしたアイスランドの曇り空とフィットするようで、許せる。
 訳がわからないが、訳がわかるような気にさせるこの作品に、妙な心地よさを感じる人がいてもおかしくないと思う。傑作とは言えないが、たまにはこんな作品をみてもいいかも、という意味で、まずまずの良作だと思った。
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