明石です

LAMB/ラムの明石ですのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.9
山奥で羊農場を営む夫婦が、羊のように見えて羊ではない何かの産卵に立ち会い、それを我が子として育てることになる。深夜に『羊たちの沈黙』を観てたら、本物の羊が出てくる映画を観たくなりU-NEXTで鑑賞。霧深い山の中で粛々と怪異が進行していく感じ、昔、子供の頃に『もののけ姫』を夜中にひとりで観た時に感じたそこはかのない不安感を思い出した。

『プロメテウス』や『エイリアン:コヴェナント』のノオミ·ラパスが、異常さをもろともしない平静な演技で異常な世界を演出。母は強しというかなんというか、怪異を平気で日常に招き入れる姿がたくましい。「異常」が少しずつ「平常」を侵食し、それが「平常」そのものに変化してゆく過程にこの映画の不気味さは詰まっているわけですが、何を考えてるか腹の底が見えず、なんとなく不気味な彼女の個性が素晴らしく生きてますね。大事な人の死に際し、泣き崩れるでもなく、全てを悟ったようにはっと脱力してエンドロールが流れる演出(というか彼女の演技)もお見事でした。

また本作はビジュアルの作品であって、ショットの積み重ねで物語の説明をする優れて映画的な映画。台詞は全編通して多分30行くらいしかなく、「あれは一体何だ?」「幸せってやつさ」など、時として必要な言葉さえもを切り詰めた感じが思いきりよくて好き。単にアイデア勝負の作品でないことが画面によく現れている。ラストはなぜそうでなければならなったのか、そもそも「羊人間」とは何だったのか。この、謎を程よく謎のまま残して終わる感じもとても私好みでした。

なんでこんなにフィルマの評価低いんだろう。新感覚ホラー的な、言葉では説明できなくとも新しさは伝わる、これまでにないホラーを切り拓くジャンルに属する作品だから、評価が安定しないということなのか。ともかく私としては大満足で、こういう映画が観たくてホラーを漁ってるんだよなと再確認させられた。理解する映画ではなく、浸る映画なのよねきっとこれ。
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