せきとば

女神の継承のせきとばのレビュー・感想・評価

女神の継承(2021年製作の映画)
4.0
素晴らしかった。これぞナホンジンと膝を打つ出色の出来。

日本含むアジアの多くに分布する精霊信仰をモチーフに、タイ東北部のとある村で崇められる「バヤン神(女神)」との交信能力の継承を描きながらすったもんだをおこすパニックホラーとしての本筋と、代々女性に押しつけられてきた(女神的な)ヒーラーとしての役割を消費する我々、とりわけ男系家族への呪いとして象徴されている”男性”の身勝手さと、モキュメンタリーという形式を通してシニカルに批判される”消費者の眼差し”に焦点をあてた思想的な筋が巧みに交差する。

”持つ者”の放漫さとその養分として犠牲となってきた”持たざる者”の恨みの対立というか意趣返しというか…そういった表現を持ってあてこするやり方はコクソンで見せた宗教的な信仰心に対する疑念的問いを越えて、より大局的に我々一人一人を名指しする。

果たして祈りの先に救いはあるのか。きっとあろうがなかろうが我々は祈り続けないといけないのだろう。我々の地平は巨人の肩だけが作っているのではなく、名もなき犠牲の上に成り立っている。犠牲者たる(あらゆる)彼らから名前を奪ってきたのはほかでもなく祈ることを忘れた我々自身なのだ。
せきとば

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