たかっし

パリ、テキサス 2K レストア版のたかっしのレビュー・感想・評価

4.8

サミュエルフラー、ニコラスレイらのアメリカ映画をこよなく愛するヴィムヴェンダース監督。アメリカ映画への思いをテキサスとロスアンゼルスを行き来するロードムービーして結実させた。
ロビーミュラー撮影監督の原色鮮やかな乾いた風景の映像と、ライクーダーがボトルネックで即興で演奏した音楽が際立つ。

しかし四半世紀振りに見て、余りに愛に不器用な家族の物語であることが何よりも際立った。
覗き部屋、トランシーバー、録音機でのコミュニケーションにこの家族の不器用さが伝わる。
覗き部屋での互いの告白がこの映画のハイライトなのは間違いないのだが、お互い電話とスピーカー越しに背を向けて、互いへの狂おしい想いを伝える。余りに不器用な愛情表現ではないだろうか。

ラストのトラヴィスは結局身勝手ではないかと思われるだろう。が、身の拠り所のない愛というものは確実にある。
ウェンダース監督のアメリカ映画への深い愛と叶わぬ想いのメタファーとして、トラヴィスのジェーンへの想いが描かれているのは深読みだろうか。
作品順にはことの次第〜ハメットの次がパリ、テキサスである。前2作でのフラストレーションがこの映画でのアメリカ映画への不器用で狂おしい愛に転化していったと私は思っている。

トラヴィスは結局放浪し続けることになるが、最初の砂漠を彷徨う姿と、最後車で去る姿は全く違うものだった。
ヴェンダース監督もこの映画を作成する旅の途上でトラヴィスと同様に想いをかたちにしつつ、前とは違う姿でまた旅を続ける決意をしたのだろう。
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