るか

アステロイド・シティのるかのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.3
初ウェス・アンダーソン作品。1度でいいから監督の目を通して世界を見てみたいと思わせてくれるような構図美とクスッと笑える可愛さの奥にメッセージを感じる素晴らしい作品だった。
開始とともに、テレビ放送が始まる。「アステロイドシティ」とはこの放送のために作られた架空の話で、登場人物も、出てくる都市でさえ架空なのだという。だが、その虚構の世界にこそ現実はうまく移されているというものだ。
ここが本作の最も特徴的な部分であり、予告編ではわからないものとなっている。劇中劇の作品構成はデミアン・チャゼル監督が『バビロン』、『ラ・ラ・ランド』などで多用しているが今作はその上をいく「劇中劇中劇」なのだ。テレビ放送で「アステロイドシティ誕生秘話」的なものがあり、その中でさらに「アステロイドシティ」を演じるという話で聞くと脳みそが混乱しそうな作りになっているのである。だが、カラーとモノクロ、アスペクト比などで明確に分かれており混乱することはほとんど無かった。それぞれの世界でそれぞれの魅力があるのがまた本作の良い部分。
カラーで現状のアスペクト比のアステロイドシティは文字通りアステロイドのフィルターをかけた様ないい色褪せ具合で、50年代のアメリカを見せていく。180°の法則を破った舞台を映画館で見ているようないい意味での「手作り感」のあるセットはどこか好感を持たざるを得ない。出てくるキャラクターたちはそれぞれ人間味がありつつも役割をしっかりと付与されていた。
そして、シネスコ比のモノトーン世界ではこのアステロイドシティの意味をそれぞれの演者、脚本家、演出家たちが自分たちなりの答えを探してゆく。こちらのシーケンスでは数多くのパンチラインが製造されており、できればゆっくりセリフ1つひとつの意味を噛み締めたかった。
だが、この2つの世界も物語が進むにつれ、境界線が薄れていく...
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