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アステロイド・シティのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.7

これまでのウェス・アンダーソン作品にも増して、捉えどころの無い作品だった。

画的には、ウェス・アンダーソン的な箱庭世界の延長線上にあり、青や緑、黄色が強め、彩度の高いパステルカラーに、計算し尽くされた構図(スカーレット・ヨハンソンとジェイソン・シュワルツマンが窓越しに会話するシーンは、どれもこれも絵が決まってて素敵だ。
2つの建物の間には、砂漠の中にカジノ建設予定の看板がポツンと置かれている。)
ただ構成は複雑。前作同様に白黒パートとカラーパートが用意され、
冒頭を含む白黒パートは50年代のTV番組で、さらにその番組の中でカラーパートの劇中劇としてアステロイドシティの物語が描かれる。さらにアステロイドシティに集まった者達の中に混じったスカーレットヨハンソンは大女優で、休息の合間に、出演作の台本読みをするのだ。3層の入れ子構造。
作り物性/虚飾性を隠さず前景化した構造ともいえる。

捉えどころの無いというのは、ここで語られる内容が。
過去作と比較しても今作の内容は、舞台がアメリカという事からか50年代アメリカへの批評性が透けて見える。
例えばヨーロッパを舞台にして、フランスを始めとしたヨーロッパへの憧れを臆面もなく前作「フレンチ・ディスパッチ〜」とは全然違ったものだ。
今作の舞台、アメリカ中西部の街アステロイド・シティでは何度か核爆弾の実験だろうか、キノコ雲があがる。それを当たり前の日常として受け入れる登場人物。
そもそも、このアステロイドシティの少年少女科学者コンテストの主催者は軍であるし。軍隊のお偉方役のスピーチも何やら良くわからないが奥底に不穏さを忍ばせているようにも思う。


もちろんコメディベースのドラマではある。ただ、シュールなユーモアも、
登場人物が喪失を乗り越えようとするシーンも、その演技は感情が昂らず平坦で、この物語の舞台であるアメリカ中西部の砂漠のように乾いている。
もちろん意図的にそういう演出をしているのだが。この書割りの様な砂漠の街からは、温度や湿度が伝わらない。

あるシーンで、狭い天文台の中に二人きりになる、天才科学者の少年と少女。
少女が「地球外に居るほうが寛げると思う」と言うと、密室に二人きりでドギマギしていた少年科学者の方も「僕もそう思うよ」と共感を示す。
思えば、ウェス・アンダーソンの心のうちがこの台詞に込められてるのではないか。
アメリカのテキサスに生まれながら、居心地の悪さを抱き、ここではない何処かに憧れを抱きながら、先述したような描かれた幸福な共感を体験できなかった、ある種の孤独感がウェス・アンダーソンの興味をヨーロッパへ向かわせ、また創作意欲の源だったのではないだろうか(ウェス・アンダーソンの事は余り知らないので全くの推測)。
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