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アステロイド・シティのnのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.2
夢みたいな映画をみた。夢みたいにロマンチックで、カオスで、どこかサイケデリック。それでいて目まぐるしさや突き動かされるような情動はない、pop&peaceな夢。

モノクロで映し出される演劇調の口上から一転、場面転換で訪れる"ディズニーのような"楽しげな雰囲気に、開始早々ぐんと引き込まれる。私はその瞬間からエンドロールまで、夢の中で時間を過ごしていた。

前作のフレンチディスパッチは、雑誌をめくるような軽さで、少し物足りなかった。今作は、その点では大きく異なる。冷戦の時代、核と宇宙開発競争が全面にでる舞台設定であり、過去作同様に、身近な人間の喪失が作品の中心で存在感を放つ。ただ彼の作品はそれだけで終わることはなく、独自の作り込まれたポップな世界観と劇中劇の構造が、現実の出来事を含む全てを包み込む。ここにウェスアンダーソンの力量が如何なく発揮されていると思う。

演劇をメタ的に扱ったとて力負けしない重さと、大衆カルチャーとして消費されうる演出が溶け合う妙味。彼の作る虚構はあまりに力強く楽しすぎる。“You can’t wake up if you don’t fall asleep”...もうちょっと夢を見ていたくなる、そんな時間でした。
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