ワンコ

硫黄島からの手紙のワンコのレビュー・感想・評価

硫黄島からの手紙(2006年製作の映画)
5.0
【何を感じるか】

※Bunkamuraル・シネマ ワーナー・ブラザース創立100周年記念上映 35ミリで蘇るワーナー・フィルムコレクション 。

「硫黄島からの手紙」は、アカデミー賞で、外国語映画賞ではなく作品賞にノミネートされたが、「ディパーテッド」に及ばず受賞は逃したものの、その他の映画賞では多くの賞を受賞、ニューヨーク・タイムズがほとんど完璧な作品と称したほか、CNNが2006年公開の映画で唯一の名作と讃えた。

硫黄島決戦。
戦死者: 日本-約20000人、アメリカ-約7000人。
戦傷者: 日本-約1000人、アメリカ-約22000人。

合計するとアメリカの戦死傷者が日本を上回り、日本兵はよく戦ったなどと訳のわからない評価をしようとする右翼寄りのバカはいるが、日本兵はほとんど命を落としているのだ。
皆生きたかったはずなのだ。
ただ、僅かなれど、よくぞ生き残ってくれたと思う。

僅かな生存者だったが、これは栗林忠道陸軍中将の知恵があったればこそで、バカな士官の下では兵士の命も軽くなってしまう。
インパール作戦もそうだ。

この作品は、栗林忠道が家族に送った絵入りの手紙を吉田津由子氏が編集した『「玉砕総指揮官」の絵手紙』をベースにした物語だ。

どんな状況下でも威張り散らすしか能のない士官連中。
映画の中でも、武運長久なんて言ってるのがいたが、本当は皆生きて帰って来たかったのだ。

本土決戦前の最後の砦となる硫黄島。
マリアナ沖で海軍は壊滅、残った戦闘機は全べて東京に帰還し本土防衛。
大本営からの支援なし。

孤立無援の島で、塹壕作戦を捨て、穴を掘って作った洞窟での防衛戦。ある意味、発想の転換だ。

兵隊が死ぬのはやむを得ないとか、全員死ぬべきだなどと言っている士官の言葉を聞くと、プーチンやイスラム原理主義の武装勢力の連中を思い出す。
プーチンは後退する自国の兵を後ろから撃つのだ。イスラム武装勢力は、神は偉大なりと叫び自爆する。
何ら変わらない。

3日で終わると言われた硫黄島決戦は、36日間続いた。

この約2時間20分の作品で後半の約1時間10分は静かな戦闘の場面だ。

「静かな」と書いたのは、いたずらにアクション映画ばりの殺傷場面を前面に出さず、兵士の葛藤や心の動きを都度表した作品であるように感じたからだ。

潔く死ぬことを説く士官も死を恐れ隠れる。

硫黄の臭いの立ちこめる島の摺鉢山の元からの息苦しさ、徐々に迫り来る敵、その押しつぶされそうになる感じが、余計リアルさを後押しする。

更に、一部の色を除いてモノクロに仕立てた映像は、観てる側に対して、ストーリーや画面を追いかけるのではなく、考えることを促しているようにも思える。

この決戦の後、アメリカ軍は沖縄戦に突入することになる。

この時点で、降伏するチョイスを連合軍から大本営は与えられていたのに、自滅の道を歩むのだ。
沖縄戦、広島・長崎への原爆投下、日本各都市への空襲。
多くの国民の命が失われた。
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