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余命10年のitchyのレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
4.0
"Memento mori"「死を忘れることなかれ」という警句がラテン語であることが驚きだ。現代人は心のどこにもそんな思いはー微塵もないと言うことなんでしょう。そして『余命10年』は改めてその事について考えさせる映画。

 Memento mori  別の言い方ではCarpe diem (今を楽しめ) 。この表現もラテン語であるのは意味深長。映画でこの二つを明言して真っ向から扱っているのが"Dead Poets Society(いまを生きる)" でしょう。 "Seize the day"が原作タイトル。「今を掴め」と映画の中で主演のロビン・ウィリアムズが言っていたと思います。そして『余命10年』でも茉莉が左手の親指と人差し指で太陽を摘まんでいるようなショットをビデオカメラで撮っているシーンはそのとても象徴的なシーンだと心射たれました。

 それ以外でも「桜が散る」ことは命の儚さの比喩として日本文学では使われてますが、この映画ではとても綺麗に画角に納められています。今の季節に大きなスクリーンで見せていただけたのは大変うれしかったですし、それだけ無防備に心の中に入ってこられてしまいました。(コロナ禍に入って制作されたダミアン・ハーストのさくひんが『桜』であることも考えさせられます。)

コロナ禍とウクライナでの戦争に地震。嫌でも「死」を感じる時代ですが、もっと深く「生きる」と言うこと、それがいかに恵まれたことであるのかと言うことに思いを馳せる良いきっかけになる映画でした。

 
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