ざきりき

イノセンツのざきりきのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.5
2023/08/11

一緒に観た人と性善説の話になった

まず、映像力がすごい
色味、構図、カメラワーク、カット割、間の取り方、編集…全てがうまく、惹き込まれる
建物をグオン…ってワークで撮るショットのフェチなので、たまらなかった

登場人物ごとに世界の見え方もちがっていて、主観のショットじゃなくてもそれが伝わってきてよかった
例えばアナ視点のショットは太陽の眩しさや周囲の音の遠さなど、この世界でアナは生きているのだとしっかり感じられた

物語としては、親子の話だと思う
精神的な病を抱える母と優しい娘の、温かい母子家庭
自閉症の姉とその妹である主人公を育てる両親
ネグレクト、虐待気味の母を持つ少年…など
それぞれの家庭環境と、それに起因する個性豊かなこどもたちの言動
もちろん遺伝子もあるだろうが、個人的には、育ってきた環境がその子の成長へ大きく影響を与えると考えている

例えば主人公の家庭の両親は、やさしさも賢さもまともさもあるように見える
もちろんこどものことを全てわかっているわけではないが、しっかり向き合おうとしている
しかし自閉症の長女へ時間を割いてしまう分、親からの視線や愛を感じにくい次女
自分より先に生まれた姉の面倒をみたり、ケアをしたり、家族の中で妹であるはずの自分が姉のような立場を強いられる
それが全ての原因だとも言い切れないが、こども特有の残虐性が垣間見える
そしてその矛先は無意識のうちにその姉へと向かうこともある

男の子も同じで、その残虐性は家庭環境に原因があるんじゃないだろうか
だがもちろん、全てが母親のせいだとは言えない
物語の中では描かれていないさまざまな要素があの家の状況を作りだしているし、そのお母さんがどんな環境で育ってきたかなども十分に関係していると思う

その男の子の悲痛な叫びが一番堪えた
苦しみの中、孤独、後悔、そして助けを求めるようにも聞こえたその叫び声
どうにかして助かって欲しい、救いのある終わり方をしてほしいと願ってしまった
そういう意味では、後半は超能力バトルになってしまい、結末も自分にとっては残念なものだった
何かしら、親子の関係や閉ざされたコミュニティの中で生きるための救いが提示されてほしかった…よくばりかもしれない
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