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ある男のakariのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
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面白かったです。「ある男」の生き様には感動したし、「ある男」のラストの決断にはゾワゾワしました。名前を変えても人生を変えても、その場所で誰と出会い何をしたのかという事実は変わらない。だから苦しいままの部分もあったと思います。けれど原誠として、里枝の夫として、悠人のお父さんとして、愛されたこともまた事実です。小見浦が彼を「つまらんやつ」普通の子と言っていたのが印象的でした。彼に“家族”と幸せでいられた時間があって心から良かったです。彼を思い涙を流す家族の姿を見て、彼もきっと泣いているんじゃないかと思うと涙が止まりませんでした。見えたのはほんの一部でしたが、本当にいいお父さんでした。「僕が話すよ。いつか僕がはなちゃんに教えてあげる。どんなお父さんだったか」ええ子や……。
自分の出生や人間関係に悩みを抱えていた城戸の決断には震えました。在日だからこう、という偏見が世の中にはあって、絶対にそこから外れていないといけない、失敗してはいけないという重圧を彼は感じていたようでした。私も、普通でいなくてはという重圧が頭のどこかにずっとあります。最近は普通じゃなくてもいいと言ってくれる人が世の中に増えました。みんながみんな押し付けてくるわけではないし、自分らしくいていいとわかっていても、どうしても凝り固まった考えが根付いていて取り除けない。そんな時に人生ごと捨てる選択肢があるならどうするだろうと考えさせられるラストでした。
俳優陣の演技が素晴らしかったです。窪田正孝さんの演技が上手すぎて、原誠の過去に苦しくなりました。城戸の誰にでも壁を作り、笑って受け流そうとする表情には共感できてしまうところもあって表現の巧みさに唸りました。奥さんから浮気を疑われかけたところの「バカ」の言い方がすごく良かったです。里枝の涙を止めたいのに平常心でいられない感じもすごく伝わりました。太賀くんはもはや演技の境地にいました。関西弁の小見浦は非常に気味が悪かった〜。皆さん本当に素晴らしくて、この前の日本アカデミー賞で賞を総なめにされていた理由がよくわかりました。見て良かったです。
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