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ある男のbaobabunokiのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

絶対、映像と編集の仕方次第でもっと深く掘り下げる事ができたのでは?という感じだった。

安藤サクラが演じる妻がメイン登場人物かと思ったが、正直それよりも明らかに原の息子が父親だと思って接していた血が繋がっていなかろうが分かり合えた人との喪失、その人の名字を変える事になるのは、原が幼少期に経験した両親によって引き起こされたアイデンティティクライシスとして重ねてメインパートとして対比させた方が良かったと思う。

在日3世である弁護士が自分のアイデンティティの葛藤から原に共感し、事件を追うのに執着していくが、在日であることへの引け目や社会的立場について表すためにヘイトニュースが流れたり、妻が“一般的”な価値観を持つ人として描かれていて対比していたけれど、結果的に事件が解決したら元に戻ってしまうような、社会に紛れ込む感じのアバウトな終わり方があまり好きではなかった。彼の葛藤は描かれるが事件の謎を解く人物であり、最後まで達観した人物として全てを描ききるのは勿体ないように感じる。

終身囚や相方の弁護士、谷口(温泉旅館の本人)の元カノ等、それぞれの役が演出としてわざと胡散臭く、可視化しにくい社会のアウトサイダーとしてアイデンティティや生い立ちに苦しむ谷口、原との差を演出するが、別にそこまで観客は見えなかった事助けてやれなかった事に負い目を感じたり、典型的彼らと同じような見方する人〈受け身〉だけではなく、観客にもルーツやアイデンティティに苦しんだ過去がある人〈当事者〉がいる事は考慮しておらず、あくまでも観客全員が〈受け身〉側であり体験させる作り方になっていると思った。

サスペンスとして実話を元にしているが『スポットライト』、『SHE SAID』の方がやはり見せ方やメッセージ性としても優秀作品として勝っていると思う。
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