ひばりん

さがすのひばりんのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.7
「忘れたらあかんで 私のこともお母ちゃんのことも 全部」

自主制作の長編映画『岬の兄妹』が話題となった片山慎三監督の商業デビュー作。

懸賞金300万を手にする為、指名手配中の連続殺人犯を追って姿を消した父親。
一人残された娘が探し当てたのは父に成りすました殺人犯だった。一体父に何があったのか……というお話。

今年のベストが早くも登場してしまった感!
まだ観ていない方は、このレビューも含む、予告編以上の情報を一切仕入れずに劇場に直行する事を強くオススメします!!


前作『岬の兄妹』と同じく日本の貧困層に視点を置きつつも、今作は韓国ノワールを思わせる雰囲気を持った濃密なスリラーであり、片山慎三監督が助監督を務めたポン・ジュノ監督『母なる証明』へのアンサー的作品にもなっていると感じました。
『母なる証明』で息子の無実を証明する為に独自に捜査をする母親(母が知らない息子の姿を探す行為)の姿は、失踪した父親「原田智」を捜す本作の娘「楓」と重なるのですが、真実にたどり着いた末の行動は全く異なるものに描かれている事が興味深いです。

また今作の構成の特徴として、父の失踪とそれを探す娘、そして三ヶ月前(犯人のエピソード)、十三ヶ月前(父のエピソード)の順に過去に遡り、事件の真相を見せていく作りになっていますが、これが実にハマっていたと思います。内容と相まってこのある種探偵小説を思わせる作りが面白かったです。

〇佐藤二朗がすごい。
佐藤二朗さんと言えばコミカルな役柄を演じる事が多く、またその人柄からもコメディー向きの役者さんだという認識が強かったのですが(多くの方がそう認識していると思いますが)、今作でのシリアスな演技には驚かされました。
妻とのエピソードが語られる三幕目で、とある行為をする妻を開き戸の隙間から見つめる顔……!そしてその後のリアクション!素晴らしかった。
また、多目的トイレでのムクドリ(森田望智さん)とのシーンは本作の白眉であり、迫真の演技を見せてくれました。もちろんふとした時に見せるコミカルな演技も健在です。
役者さんはどなたも素晴らしかった※ですが、やはり今作は主人公原田智を演じた佐藤二朗さんの存在感が見どころです。


楓役伊東蒼さんの出す日常感(吉田恵輔監督『空白』での演技とのギャップがまたすごい!)も素晴らしかったし、山内照巳役清水尋也さんの智を篭絡する善人面と本性の演じ分けと、死んだような目も良かった!
ムクドリ役森田望智さんなんか見た目からしてまるで別人?そして「雑魚がっ」最高!『岬の兄妹』に出演していた松浦祐也さんと北山雅康さんがカメオ出演してる!先生役の松岡依都美さん、ボクの好きな映画にいつも出ていて必ず良い演技を見せてくれてる。今回も良かった!

〇「さがす」のその先
物語終盤、ここで終わってもおかしくない、ある種の結末に楓と観客はたどり着く事になります。恐らく誰もがモヤモヤを抱えたまま「これで終わりかぁ……」と思う事でしょう。
ところが、その先、真相にたどり着いた楓がとる決断。真実を暴いてしまったが為の責任を楓は負う事になります。ここをしっかり描いた事が今作の意義、片山慎三監督の描きたかった事では無いかと思いました。

この世に存在はしているものの、多くの人が普段見えないもの(見ないようにしているもの)を徹底的に生々しく描いた『岬の兄妹』では、「もう二度と観たくない(でも、素晴らしかったし観て良かった!)」と思うほど衝撃を受けた為、今作も相当な覚悟を持って鑑賞に挑みましたが、商業作品という事でエンターテインメント性も強く作られており、また表現もマイルドで誰にでもオススメ出来る作品となっておりました。
とは言え、やはり片山慎三監督。今回もこの世に存在している我々が見たくないものを存分に見せてくれています(誉め言葉)。
観終わってまだ数日ですが、もう一度観に行きたい。こんな気持ちは久しぶりです。
オススメです!

本作はフランツ・リストの「愛の夢」で始まります(終盤の大きなシーンでも流れる)が、監督のインタビューによると実は当初美空ひばりさんの「真っ赤な太陽」にしたかったそう。
頭の中で「真っ赤な太陽」を流しながら観るとまた印象が変わって面白いと思います。ていうか、「真っ赤な太陽」バージョンも観たいなぁ……!
ひばりん

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