ツクヨミ

さがすのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

巧みな構成と予想がつかない脚本力に驚きを隠せない衝撃サスペンス。
大阪の下町で父と2人で暮らす中学生の楓。突然父が指名手配犯を見つけたと言い失踪、彼女は自力で捜索を試みるが…
片山慎三監督作品。"そこにいた男"で巧みな構成力を見せてくれた片山監督の長編第2作目の今作は、映画としての構成はもちろんのこと脚本力も大胆にパワーアップした秀作サスペンスに仕上がっていた。
まず今作の構成、前半は失踪した父親を自力で捜索する娘主観で見ていき、中盤からは連続殺人鬼山内に視点が変更され各登場人物の過去を映していく。視点が変換するというのも面白いが、後半は特に前半にばら撒いたかのような伏線をうまく回収し時には群像劇的な見せ方で前半の裏側も見られる演出が素晴らしい。前作"そこにいた男"から続く構成のうまさに映画的な面白さをこれでもかと詰め込んでいる。
そして今作は脚本から見ても素晴らしく、前半は失踪した父親の娘楓の話、中盤は時系列が過去になり殺人鬼山内の話、後半は殺人鬼山内と失踪した父智の話が交錯し前半最後の楓の話に直結する。この脚本構成だけで映画として面白すぎるのに、ラストで片付いた話の後で起こる小さなどんでん返しには震えた。個人的に前半の楓の捜索話が好みで中盤後半と楓の影がかなりうすかったのでちょっと意気消沈していたが、ラストで父智を正義の心で見据え通報する楓の姿に小さなガッツポーズ。内容的には父親を娘が通報するという内心複雑すぎる展開だが、前半で真実を知りたいから捜査を続けた正義感溢れる楓の人間性を踏襲したようにラストで主人公として展開に回帰する脚本は最高だ。
また今作は前作"そこにいた男"と同じように日本の社会問題をテーマに添えている。貧困に喘ぐ父子や殺人鬼の複雑な状況はもちろんであるが、特に今作はクリント・イーストウッド監督作品"ミリオンダラー・ベイビー"のようにデリケートな安楽死の問題を描いていることに驚いた。智は妻が筋萎縮性側索硬化症で苦しみ死を願っているのに周りが死ぬのを許してくれないことを哀れに思い妻を山内の手を借りて安楽死(絞殺)させ、殺人鬼山内は死を望み苦しんでいる障がい者を次々安楽死させていく。たしかにこういった問題は重いし涙を誘うが、今作は片山慎三監督作品だ。その要素を殺人鬼山内の性的嗜好と殺人衝動の隠れ蓑として用い、山内の犯罪をある意味正当化する要因としているのが恐ろしい。監督の前作"そこにいた男"では殺人者の過去を描き冷ややかなまでのサイコパスさを露呈したが、今作はその上をいく気持ち悪い殺人鬼像を形成している。
そして今作の1番の問題点はラストシーンで、智と娘楓の卓球を横から見る中で楓が智の犯した過ちを知り逮捕されるラストをミスリードさせる。そこでパトカーのサイレンがゆっくりと近づくように鳴るのだが、音が鳴っているのに打ち合っている筈の球が唐突に画面から喪失しゆっくり中心ネットにズームインして映画は終わるのだ。そしてエンドロールが始まり暗転の中バックミュージックの中で小さく鳴るピンポン球が跳ね次第に落ちる音が響く。個人的にだがこれはクリストファー・ノーラン監督"インセプション"のラストカットで回るコマが回り続けるか止まるか問題を想起させ、ピンポン球がどちら側に落ちどちらが勝利したのかはわからないのと同じく、逮捕される智の運命は有罪か無罪かはわからないという解釈ができる。映画としてこんなに面白いのに、最後の最後で観客に委ねる又は思考させるとは…鑑賞後もずっと考えちゃうくらい楽しすぎる問いかけだった。
全体的に構成としても脚本としても面白くラストカットまで考えさせられる至高の映画体験だった。個人的に女の子が大変な思いをする作品に惹かれるのもあるが、楓の真実と父を見つけるためにはどんなこともする突き抜けた正義感は最高に好きなキャラクター像。最後に父を通報するという重すぎる大役を号泣しながら全うする姿にはこちらも泣かざるを得なかった。片山慎三監督の作家性とパワーには恐れ入ったが、楓を演じた伊東蒼さんにも拍手を贈りたい。
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