KnightsofOdessa

Sundown(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Sundown(原題)(2021年製作の映画)
4.0
[メキシコ、ただ太陽が眩しかったから…] 80点

傑作。2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門出品作品。メキシコはアカプルコのビーチで寛ぐニール、その妹アリスと彼女の二人の子供アレクサとコリン。並んで寝椅子に転がって日光浴を楽しみ、ホテルのレストランでテーブルを囲み、ダイビングショーを観て、仕事をするアリスを諌めるなど、一見仲は良さそうだ。そんな中、ニールとアリスの母親が亡くなったという知らせを受けてロンドンへと急ぐ帰り道、ニールは"ホテルにパスポートを忘れた"として一人アカプルコに残る。しかし、ニールはホテルに戻ることなく、パスポートも探さず、タクシ ー運転手に別のホテルを紹介してもらって、そのままアカプルコで暮らし始める。

本作品は『バートルビー』や『ウェイクフィールド』『異邦人』などに通ずる不条理劇である。アリスからの電話には探してもいないのに"全然見つからないのよ~"と返し、金には興味がないとして相続権を放棄するなど、作中でどんなことが起ころうと、例えそれが自分に対することでも、まるで他人事のように流して、無気力にボヘミアンな生活を満喫している。それだけならばただの不条理劇だが、現代メキシコ要素として、ビーチで突然人が殺されたり、武装した軍人がパトロールしていたり、道路で銃撃されたりするなどの不条理性も合流し、不思議な世界観を作り上げている。

"日没"という題名に呼応して、本作品にはジリジリと肌を焼くような強烈な陽光、及び太陽そのものが登場する。まるで気力を全て吸い上げるかのように煌々と輝く太陽は、美しくも恐ろしげに映り、最終的に無気力と不条理の迷宮を司る神のような目線で、ニールの生活を冷徹に観察し続ける。終盤でその理由みたいなのが与えられたのが少々残念ではあるが、非常に興味深い不条理映画だった。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa