ノラネコの呑んで観るシネマ

パワー・オブ・ザ・ドッグのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.7
TIFF。
ジェーン・カンピオン久々の新作は、さすがの仕上がり。
1920年代のモンタナ、ベネやん演じる傲慢な牧場主の所に、弟が妻だという未亡人とその息子を連れて来る。
この男、ミソジニーの塊の様なマッチョイズムの信奉者で、弟の妻にも冷たい仕打ちを繰り返す。
映画序盤は胸糞な兄に弟の妻が虐げられ、心を病んでゆく鬱な展開。
しかし中盤になると、兄の心の中の鬱屈した闇の正体が、徐々に浮かび上がって来くる。
タイトルは旧約聖書の詩篇22章からの引用で、「犬の力」とは、人間を苦しめる悪の象徴と定義される。
兄は、彼の怒りの原点である「犬の力」にずっと囚われているのだ。
と、ここへ大学の夏休みで妻の連れ子が帰って来る。
彼とベネやんが、ベネやんと彼の人生を決定付けた姿無きキーパーソンと、ちょうど年齢を逆転させた関係であることがポイント。
やがて兄は、連れ子との関係に救いを見出してゆくのだが、一方の連れ子は全然違うことを考えている。
何故ならベネやんの過去など、彼には知ったことじゃないからだ。
そして導き出される結末は、はたして聖書の言葉通りの「解放」なのか、否か。
この物語は多分に偶然の要素によって進行してゆくのだが、連れ子がいつ決意したのかによって、解釈がかなり変わって来る。
私は、兄が「障害物」の話をした時と思った。
ネトフリ案件だが、イオンシネマにもかかるらしい。
重厚な文芸大作は明らかにスクリーン向きで、劇場での鑑賞がお勧め。
ブログ記事:
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