ShinMakita

パワー・オブ・ザ・ドッグのShinMakitaのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
2.4
1925年、モンタナ州。

大牧場の主であるフィル・バーバンクと弟ジョージは、牛の長距離移動を行った際に、小さな食堂兼宿屋に立ち寄った。未亡人ローズが切り盛りする店内では、彼女の一人息子で少し中性的なピーターが給仕を務めている。生粋のカウボーイで野卑な出で立ちのフィルは、ナヨナヨしたピーターを笑い者にして貶めるが、社交的でマナーをわきまえているジョージは、息子をバカにされ泣くローズに同情し、恋愛感情を抱くようになる。しばらくして、ローズはジョージと結婚、バーバンク家に入ることになった。しかし、ローズをカネ目当てに弟をたらしこんだアバズレと決めつけたフィルは、事あるごとにローズを精神的に追い詰めていき…


「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

以下、パワー・オブ・ザ・ネタバレ。

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ジェーン・カンピオン監督のNetflix映画。タイトルの(犬の力)は、ドン・ウィンズロウ同様に旧約聖書からの引用。悪の象徴である(犬の力)からの解放を祈る詩篇だ。単純解釈すれば、犬の力とはフィルのことであり、祈っているのはローズということになる。が、そんな簡単な話じゃないんだよな、この映画。

常に、対立構造からくるヒリヒリする緊張が支配する映画だ。序章は、フィルとジョージの対立・対比構造。中盤はフィルとローズの対立構造。そして三幕目は、フィルとピーターの対立構造…圧倒的なフィルの力にジョージとローズが結局何もせず逃げているのに対し、ピーターが最後に牙をむくのがスリリング。ドラマ的にはやや地味ながら、この緊張の持続が大きな魅力である。フィルという人物の殻が徐々に剥がれていくのも見どころで、最初は単にワイルドなカリスマ暴君に見えていたけれど、自宅メインとなる中盤で実は名門大出のエリートで芸術素養もあり、ブロンコと出会って初めてワイルド化したのだという過去を匂わせる。そしてピーターとの再会で、フィルのコンプレックスが露わになる。フィルもまた、ブロンコ以前はピーター同様のナヨナヨだったのだろう(ここで、元来線が細いカンバーバッチがキャスティングされている意味が出る)。しかしピーターは、フィルの愛情に痛烈な答えを返して終幕となる。ピーターは明らかにサイコパスで、マシーンでしかない。母ローズを守るという任務を全うしただけなのだ。これをフィルの悲劇と取るなら、犬の力とは、実はピーターのことだったのかも知れない。

この物語を深読みするなら(いつものように的外れなのはご容赦頂きたいけど)、「アメリカ的マチズモの終焉」だと思う。ジョージをヨーロッパ、ローズを第三世界に喩えるとなんかしっくりくるのは俺だけか。ピーターは、その三角関係から生まれ熟成された新たな価値観や脅威のメタファーなのかなと。

広大な大自然のショット、カンバーバッチの名演と視覚的にも優れた作品。Netflix加入してても、当直室の小型テレビで観る気がせず、劇場に足を運んでみた。オススメです。
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