どど丼

あのことのどど丼のレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.5
2021年のベネチア映画祭金獅子賞受賞作。妊娠中絶が違法の1960年代フランスで、予期せず妊娠した大学生が勉強を続けるためどうにか周囲にバレないよう堕胎しようとする話。

こんなに息の詰まる映画体験は久々だった。似た作品に「17歳の瞳に映る世界」があるけど、本作は“非合法化での妊娠中絶”というさらに緊迫した状況を映画として描けるギリギリのところまで攻め込んで映像に落とし込んでいるだけあって、リアリティが凄まじくエゲつない。将来のために中絶一直線で突き進む主人公の表情の中に垣間見える不安と後悔の念がゴリゴリ伝わってきて、あたかも自分毎のように思わせてくる。自分一人では抱えきれないのに、近親者には打ち明けられない秘密への向き合い方を模索する……という意味では彼女に同情できる部分もあり余計にそう感じたのかも。

当方のような男性目線では中々理解し得ない中絶の苦しみであったり、様々な危険な中絶手法があることは勉強になった。多くの医師が人口堕胎に反発していたために、中絶希望者に逆に胎盤を強化する薬を処方していたというエピソードが印象的。実際問題がどうかは自分に預り知れないとはいえ、監督やキャストを始め、女性が多く参加しているはずなので、比較的説得力の強い作品と受け取っています。

小規模系ながら、「ジョーカー」「ノマドランド」と大作映画が受賞してきた栄冠を取っただけある重量感のある作品でした。地獄のようなカウントダウン、そしてラストは一生忘れないと思う。
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