KeiRalph

あのことのKeiRalphのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
4.1
邦題を「あのこと」と秘めた事にセンスを感じる。時代が時代なら、で、それが何か?となりかねないことの恐ろしさ。

大学生のアンヌは成績優秀、将来作家になる事に絶対の自信を感じさせる彼女に、妊娠が疑われる。かかりつけ医には性交渉がないと嘯くのは、信じたくないという気持ちだったのか。とにかく、これから待ち受ける彼女の人生にとって出産は障害でしかない。しかし、本作の時代設定である1960年代フランスは中絶禁止。医師が犯罪者としてのリスクを取るはずもなく、ここからアンヌの、あまりにも苛烈な、産まない決意への孤独な戦いの日々が続く。

女性が子供を産むことは、同時に自分らしさも失う事となる。またそれを拒む事も、男性優位な時代ではタブーとされていた時代であれば、本作に絶え間なく続く息苦しさが、アンヌの誰にも言えない状態からの打開策(闇医者に払う手術代を、私物を売って工面する姿)からも伝わってくる。

「主婦になる病」を回避するための手段を経たのち、アンヌのこれまでと変わりない日々は約束されるのだろうか。
KeiRalph

KeiRalph