Omizu

あのことのOmizuのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
3.9
【第78回ヴェネツィア映画祭 金獅子賞】
ノーベル賞作家アニー・エルノーの同名小説に基づく作品。監督は『バック・ノール』などで脚本をつとめたオードレイ・ディヴァン。ヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞、セザール賞や英国アカデミー賞でもノミネートされた。

徹底したリアリズムによって語られる一人の女性の受難、とにかく辛く痛い映画だった。終盤に向かってどんどんそれが加速していくので観ているのが本当に辛かった。

本当に監督二作目?というくらい洗練されたディヴァン監督の手腕に舌を巻く。展開も早く語り口もこの物語には一番適したトーンでよかった。

人工中絶が違法だったフランス、世界がどんどん保守的になっていく今の時代に語られるべき物語だと感じた。賛否両論ある社会問題なのは間違いないが、これは女性の自由を奪う人権侵害だと思っている。リアルな心理ドラマでありつつ、選択肢がないということの苦痛を訴える社会派映画として立派な作品だと感じた。

もちろん主演の人の体当たりな演技も素晴らしく、限られた出番で強烈な印象を残す名優サンドリーヌ・ボネールも流石だった。アンヌの友だち役の人、なんか見たことあるなと思ったら『燃ゆる女の肖像』でソフィー役の人だった!なるほど。中盤で印象的なセリフを放つ彼女、素晴らしかった。

とにかく苦しく痛々しい映画であり、徹底したリアリズム描写が素晴らしい。ディヴァン監督は『エマニュエル夫人』の再映画化を手掛けているらしい。どんな作品になるのか楽しみだ。
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