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ベルファストのbookslothのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.3
1969年北アイルランドの少年・バディ。街角でドラゴンを倒し、将来はサッカー選手になって、優等生のキャサリンと結婚したい。わんぱくな彼をよそに、ベルファスト地区は不安定な情勢に侵される。プロテスタントとカトリック、イングランドとアイリッシュ。様々な対立と暴動の中を家族は手を取り合って生きていく。

こどもはどこでだって、笑う力を持っている。バディはいい子。そして毎日忙しい。火炎瓶が飛び交い、宗教対立が激化して、両親が生活費に喘いで立って、彼の視界が捉えるのは愛しきキャサリンの姿。どうやったらキャサリンに近づける?とおじいちゃんとおばあちゃんの知恵を借りるバディは半端じゃなくかわいい。怖すぎる、迫力満点の美しきお母さんと、これまたいいコントラスト。
物事を難しくしているのは大人なのだな、と思う。子供の目を借りれば、宗教の違いも文化の違いもピンとこない。
両親と祖父母、それぞれの夫婦の在り方。気持ちのいいくらい対等な関係性。それでいて互いのことを深く愛している。ずけずけとものを言い合っているようで、絶対に相手を失いたくないという強い思いが底にはある。だからこそ彼らはぶつかりあったりする。
どうやったらキャサリンとうまくいく?と尋ねるバディ。おじいちゃんは彼女を愛せと言う。誰でも言える耳馴染みのいい言葉だけど、この人たちが言うそれには真味がある。だって彼ら自身が、それを実践しているから。大切な人を深く愛しているから。
クライマックス、この子を泣かさないで、と強く願う。そしてまた彼の笑顔を見れた時に、さらに涙が溢れる。後半はずっと泣きっぱなし。その気持ちは彼らの両親のそれとぴったりと重なる。子どもを通じて大人を愛する映画。
いい映画は、観た後に誰かを抱きしめたくなる。これはそんな映画だった。
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