GK

ベルファストのGKのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
カラーで全く障壁なく撮影できて公開もできる現代において、モノクロで映画を作ることの意味は何だろうか。

時代設定が昔で、その雰囲気を出すためにモノクロに。
わかりやすいところはそこだろう。少し遠い昔の話、距離感を感じさせるのにモノクロは効く。
しかし色がないことで情報量が少なくなる面もあり、演出や画作りが難しくなってしまう。

では『ベルファスト』はなぜモノクロ映画なのだろうか。

ケネス・ブラナー監督はこう語っている。

”モノクロ映画はあらゆるものを実際より劇的に見せる効果がある。この物語の表現方法のひとつにその手法を取り入れることで、平凡な世界を魅力的に見せることができると思ったんだ”


私はこのモノクロ映像による魅力的な世界は、9歳の少年バディが見る世界だと思った。

子どもは大人ほど世界のことを知らない。学問面での基礎的なこと、宗教や心情の違い、そして恋とは何かetc…知らないことがたくさんある。
一方で入ってくる情報の量が少ないからこそ、見えてくるものもある。
それが『ベルファスト』のモノクロ映像で描かれている。輝いている人や町のことだ。

街は遊び場だ。大人の目で見れば少しくたびれた古い町のように見えるが、子どもに取っては狭い路地裏もサッカー場になる。
宿題は誰かと仲良くなるためのツールだ。おじいちゃんと話しながら算数の宿題をしたり、好きな娘と一緒に月について調べたりすることもできてしまう。
そして両親は誰よりもかっこいい存在だ。たまに喧嘩もしているけれど、精一杯生きているし、つらいことはあるけれど人生を楽しんでいる。

バディが見る世界は輝いている。それがモノクロ映像によって強調されている。

一方で唯一カラーなのは映画の中の映画だ。
映画の中では、バディが初めて見ることに溢れた世界が映し出されている。
その情報量をカラーで表現しているのだと思う。


「子どもは(思っているより)大人のことを見ている」とよく言うが、正確には「子どもは大人の”本質的な部分を”見ている」ということなのではないか。
誰かを愛しているか/憎んでいるか、人生を楽しんでいるか/苦しんでいるか、そして自分を愛してくれているのか/愛されていないのか。
そういった人生の本質的な部分への感受性が高いのだと思った。


子どもから見て、自分は「楽しい人生を送っている」と思われるような毎日を送っているだろうか。
バディにとっての父親と母親はそうだったようだ。
終盤のダンスシーンは多幸感に溢れていた。彼の目には両親はそう見えているのだ。


ちなみに『ベルファスト』は音楽も非常に良かった。
ベルファスト出身のシンガー・ソングライターのヴァン・モリソンが担当している。


大きく劇的な出来事が起きはしないので、THEエンターテイメント作品だとは言えない。
しかし実に映画らしい作品というか、人の生を肯定する前向きな作品だった。
GK

GK