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ベルファストの速のネタバレレビュー・内容・結末

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

緩急の付け方がうまいからだろうか、観ていて飽きない映画だった。
少年期の思い出、家族と地域の結びつきという個々の問題と、宗教紛争という大きなテーマが、別々にならずひとつのストーリー上でまとまっていたのがよかった。

映画としての出来栄えは非常によいのだが、この映画を手放しで称賛することには危険も感じた。
映画内で語られる、宗教についてのメッセージは穏当だし、祖父の語りは慈愛に満ちて奥深い。
だが、主人公のまわりの家族たちは、宗教紛争においてほぼ全面的に無罪の立場だ。ごく一部、巻き込まれがちに悪に手を染める瞬間があるが、観客側が許せる度合いのものとして描かれているのみだ。
アイルランドの宗教紛争に罪を持たないわれわれが、アイルランド内で巻き込まれた中立的立場の家族に共感し、宗教紛争はよくないなと改めて実感する。善の立場に安住するこの映画は、ある意味で勧善懲悪の単純なアクション映画と同種のものなのではないだろうか。

私は勧善懲悪のアクション映画も好むが、それを観るとき、気楽な観客であるという自己認識を持っている。

「ベルファスト」もそのように自覚して観るべき映画ではないだろうか。
素晴らしい映画であるが、観ている私は、映画の気楽な観客であり、史実の紛争の気楽な観客である。史実の悲劇を気楽に楽しむことに、少しのためらいを覚えつつ、映画を存分に楽しんだのであった。
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