ヒロオさん

ベルファストのヒロオさんのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
北アイルランドの首都、ベルファスト。
1969年、プロテスタント過激派がカトリック住民を襲撃。
この日を境に、街全体が家族のようだったベルファストは分断されていく。
本作は、そこで生まれ育った少年の経験を描く。

監督が自身の幼少期を投影した、半自伝的作品。

味わい深い一本だった。
対立や悲しみ、そして喜び、愛、希望などが重層的に描かれているところに、監督の故郷への愛を感じられた。
モノクロであるためか、没入感もあった。

紛争について何かメッセージを提示するわけではなく、ひたすらに子供の視点からベルファストを描いている。

暴力と隣り合わせの日々。紛争により生活が変化し、喧嘩が増える両親。子供なので状況はよく分かっていないものの、緊張感は敏感に感じとっている。

一方で、そうした記憶と並行してあるのは、学校の友達や家族との楽しい思い出。子供らしい、無邪気な目線が窺える。

様々な事情により、主人公の家族はベルファストに残るか、出るかを巡って葛藤し、苦渋の決断を下すことになる。

それを踏まえたラストシーンは粋。色んな感情を背負いながらも生きていく力強さを感じ、余韻が残った。

【北アイルランド問題について】(ほぼ自分用)
・アイルランドはカトリックの国だが、北アイルランドはイギリスからの植民者が多く、プロテスタントが多数を占めていた。
・1920年代初頭、アイルランド独立紛争などを経て、アイルランドは独立するが、プロテスタントが多い北アイルランドはイギリス領として残る。
・北アイルランドでは、経済、社会、政治的にプロテスタント優位の体制が続き、カトリック住民は差別される。
・1960〜70年代、アメリカ公民権運動の煽りを受け、カトリックによる独立運動が再燃。他方、過激派プロテスタントによる反カトリック武装集団、アルスター義勇軍も台頭。両者の武力衝突が激化する。
・アルスター義勇軍としては、北アイルランドがアイルランドの一部となったら、自分たちの土地や財産を奪われるのではないかという不安があった。
・1998年のベルファスト合意で和平が成立し、武力対立は解消。だが近年、Brexitにより、北アイルランドの帰属問題が再燃している。
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