頭の上の赤い林檎

ベルファストの頭の上の赤い林檎のレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.5
 アイルランドの悲惨な歴史のノンフィクションでもあり、少年バディの成長譚でもある今作。
 個人的に特に良かったのは父方の祖父とバディの関係である。
 バディの父はギャンブル三昧で借金は嵩む一方。母はそんな父へ不満をぶつける。
 両親からの愛は存分に受け取ってはいたが、家に両親が揃うと常にギスギスした空気。父が稼ぎに出掛けている時でも母は常にどこか家計の金銭面での憂慮と戦争への不安が見え隠れする。
 バディの憩いの場は祖父母の家だった。両親に代わって学校での出来事を優しく1から10まで頷いて聞いてくれたのも祖父母。憧れのあの子へのアプローチを教えてくれたのも祖父。

 悲惨な戦線での生活、そして優しくはない家庭環境を幼くして見て、厳しさを知り成長せざるを得ないバディにとって、優しく自分のためを思い成長を促してくれる、大切なことを教えてくれる、かけがえのない存在として祖父母は、特に祖父は必要だったのだと思う。実際祖父とのやり取りは今作で唯一ほっこりするし、どのシーンも印象深い。

 特に良かったのはバディ一家が父の借金と仕事の都合でベルファストを離れイングランドへ行くことになり、慣れ親しんだ地元そして祖父の元を離れたくないと祖父に打ち明けるシーン。
 祖父はバディに自分が何者かわかっているか?そうお前はベルファスト15番通りのバディ。近所の人も皆友達だし、じいちゃんも母さんも、父さんも、兄ちゃんも、皆んなお前の味方だ。お前がどこに行って何になろうと一生変わらん。それが分かっていれば不幸にならない。
 と言う。

 なんて暖かくて、心強い言葉なのだろうか。かなり胸打たれた。常時不安定な少年期に必要な、芯のあるブレない言葉。こう言えるイケてるじいちゃんに私もなれればいいな。

 全編白黒にしたのも、晴天が少ないらしいアイルランドの灰色の空や、登場人物の表情が際立っていることなど含め今作では全ていい方向に作用していた。素晴らしかったです。