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ルッツ 海に生きる/ルッツのvenom9のレビュー・感想・評価

3.8
人生うまくいかない話。
舞台となるマルタ島はシチリア島の南、チュニジアの東に位置し、温暖かつ乾燥した気候とのことで日差しが強そうですが、本作ではさほどキラキラした陽光を感じません。主人公のジェスマークは代々受け継いでいる伝統的な小舟「ルッツ」で延縄漁などを行なっている漁師です。近年漁獲量が乏しく、収入が安定しません。また、経年劣化からか彼の船に水漏れが起こり、暫し自ら漁にも出ることができません。ジェスマークの妻も働いており家計を支えますが、二人の赤子に成長障害が認められ、治療や栄養価の高いミルクなどで出費が嵩み、二人は苦悩し、衝突もします。ジェスマークは収入を得るためにやや危ない橋を渡りつつ、妻も終始終始疲れた表情で、やむなく実家に支援を仰ぎ、生きるのが辛そうです。
ジェスマークは生活の安定のためにある決断をします。その後の夫婦の雰囲気や妻の表情から、暮らしぶりの安定が伺えます。ただ、ジェスマークの心はやはり海へ向くのです。
本作、マルタの漁業を描きつつ、経済的弱者が置かれた過酷な状況も伝えます。仲買人のボスがジェスマークに「50年後も魚が獲れると思っているのか? 本を読んで学べ」てな感じのことを言うシーンがあります。また、漁港から程近い場所にあるコンテナヤードとガントリークレーンが度々映し出されます。勝手ながら、環境問題へやんわり警鐘を鳴らしているのかと思いました。
ジェスマークはじめ友人のデイビッド、仲買人ボスの下で働くウダイ、俳優ではなく本物の漁師なんですね。漁や魚の処理、操船など手慣れたもので、彼らの演技力は全く気になりませんでした。
(2024年 3月 U-NEXTで鑑賞)
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