幽斎

ムーンフォールの幽斎のレビュー・感想・評価

ムーンフォール(2021年製作の映画)
2.0
パニック映画は何も考えなくても良い、のはもう昔話。脳筋破壊映画は幾らデジタル・テクノロジーが発達しても、人が描けない作品に価値は無い。最新鋭LEDスクリーンで61日で撮影、バックグラウンドは全てCG。SF映画のデカ盛り海鮮丼とか褒めてる方とは二度と口を聞きたくない。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

「インデペンデンス・デイ リサージェンス」中身同様壊滅的な興行成績で、20世紀フォックスを弱体化させ、ディズニーに買収される一因を作る、恩を仇で返したRoland Emmerich監督。「破壊王」と持ち上げられ、ドイツ人として最もハリウッドで成功した事には違いない。しかし「荒唐無稽」も度を過ぎては興醒めに過ぎず、その作家性の無さでハリウッドに居場所が無く為る。当然だがドイツに帰ると誰もが思ってた。

しかし、利用する者は利用するのがZhongjun WangとZhonglei Wang。プロデューサー、いや黒幕である。巧みに製作国がロンダリングされ、中国の制作会社は表向き関わって無い。Centropolisは監督がオーナーを務める会社だが「月が地球に衝突する」脚本に投資する程、アメリカ人も馬鹿じゃない。当初はインディーズとして作られる予定、其処に1億4000万$を投資したのが、あの2人。しかも、追加のVFXに更に1000万$を上乗せ。これで見た目だけは完全にハリウッド大作の出来上がり。

そう為ればキャストも豪華なのは当たり前。オスカー女優も私に似てると噂の人も(笑)。監督の会社が作るのだから、何の迷いも無くスターが出演。何が凄いって中国資本の映画はコケても中国人は怒らない。自分達をアメリカ人がヨイショしてくれるだけで元が取れた、と思うから。しかし、そんな映画が面白い訳が無い。

日本でCMもバンバンやるが、アメリカはソレ以上で配給したLionsgateの力の入れ様は凄かった。しかし(今日はしかしが多い(笑)、興業は惨敗で北米でも半分以下しか回収出来ない有り様。日本でも劇場公開としてキノフィルムズが2022年9月にスケジュールを空けた。が、試写を見た幹部が「こりゃダメだ」と権利を保持したまま、アマゾンに国内の配信権を売却。正しい経営判断だと思うが、ご時世とは言え日本の会社すら映画館を見捨てる姿勢には、作品の出来とは別に少し悲しい。

代表作「インデペンデンス・デイ」とか「デイ・アフター・トゥモロー」なんて、未だに末尾に2022とか付けたパチモンが毎年の様にリリースされる。監督のアイデアが凄いと言うよりも、こんな幼稚なプロットを「自分が作りました」と言うのが恥ずかしいから、全部監督に押し付けて小銭を稼ぐ輩が後を絶たない。まぁ本作は監督がセルフで自分で自分のパチモンを作った点が唯一面白い点かも。

演出の進歩は微塵も感じられず、寧ろ髪の毛の様に後退してる。私でも書けそうな三文SF「実は月は構造物だった!」そんなの昭和の都市伝説よ。監督のファンは「何でテレビで見なくちゃ」血の涙を流してるかも(笑)。「2012」ソニー製作でトコトン中国を馬鹿にしたのに「インデペンデンス・デイ リサージェンス」中国人に資金援助して貰って態度が豹変「やっぱり中国って頼りに為るな」と延々と見せられても、片腹痛いだけ。

前作「ミッドウェイ」も実は中国資本、アレは日本に対して「お前ら戦争なんて犯しな事を考えたらこうなるゾ」と態々敗戦を想い出させる為に作られた。日本も一昔前はお盆の頃に為ると終戦映画が公開される風物詩も有った。今度は中国がハリウッドで残滓と言えるディザスターを作って経済力を背景に悦に浸る。恐ろしい事に続編の動きも有るそうだが、今度こそ正真正銘の中国映画だろう。

津波とか地震とか息子の名前がSONYとかスポンサーでも無いのにレクサスとか、小出しに日本をディスる事も忘れない。製作にNASAが監修してると言うが、アレは協力じゃなくて「監視」だからね。勝手にスペースシャトルをオチョクられても困るので。科学考証はハリウッド抜きの完全無視、見慣れた描写にアクビも出ない。メイキングを見ても、合成ばかりで同じディザスターでも「ジオストーム」の方がリアリティが有って遥かに面白い。監督の「VFX依存体質」は死ぬまで治らない様だ。

おバカだけなら、まだ許せるが問題は此処から。プロットは徹底的に「陰謀論者」を悪意ある無邪気で肯定してる件。監督がアメリカで生活してるから、だろうがモチーフは「QAnon」。極右が提唱する陰謀論と政治運動だが、Qアノンは有る意味カルト宗教、日本の「ひろゆき」西村博之が運営する4chanから派生した。アメリカで粗悪品扱いされる陰謀論者をヒーローに仕立てるのは、ドイツ人らしいアンチテーゼかもしれない。

日本も「新型コロナウイルスはインフルエンザと同じ」と主張する人達が国政政党に為った。ワクチンは毒である、と言う仮説は極一部分は医学的にその通りだが、そもそも毒を以て毒を制すのが全てのワクチン、当然だがインフルエンザの治療薬でも発熱する。Qアノンも時代を越えた「魔女狩り」に過ぎず、陰謀論者の描き方もステレオタイプ。Qアノンと陰謀論者はイコールでも、オタクの名誉の為に加担するが、一緒にするなと言いたい。更に科学者と陰謀論者を堂々と並列で扱う姿勢には吐き気がした。Qアノンよ、未だに地球が平面だと言うなら、私が本気で説教してやる。SFがサイエンスを無視したら、貴方も終わりですよ。

おバカ映画に何を熱く為ってるんだと言われそうですが、その無頓着がQアノンに入る隙を与え、無自覚に説得力のある参政党の陰謀論にハマる。科学と言うのは再現可能な真実で、根拠と言うエビデンスも有る。Qアノンは真正のカルト宗教だが、安倍元総理を殺した一因を作った旧統一教会が、どれだけ自民党にエイリアンの様に浸食したか、韓国人は日本に侵略されたから幾らでも金を巻き上げても良いと考えてる事が白日の下に晒された。平和ボケと言われて久しいが、外交に努力された元首相が殺されても、危機感の無い自民党には心の底から失望した。

破壊を繰り返せば人間社会や歴史、大袈裟に言えば文明に至るまで「破壊」する。人の死を軽く描く事に、私は激しく同意仕兼ねる。
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