語りの合間に、映画が始まる前に亡くなった母親への語りが挿入される。監督の母親はパレスチナ出身で、16歳の若さで結婚させられた過去があり、常に抑圧されて育ちながら、それを娘である監督にも受け継ごうとしていた。そんな母親に対して、"もう苦しむ時代が終わるのよ"といった具合に語りかけていく。そもそも、根本は同じとは言えもはや国すら異なる問題を混ぜ合わせて語るのがあまりにも危険なのだが、それに加えて本作品はいくつかの問題を抱えている。まず、映画は2013年で終幕を迎えるが、現在は8年も経った2021年であり、その間の動向が完全に抜けていることである。『娘は戦場で生まれた』『9 Days in Raqqa』のように、撮影から公開まで時間のかかる類のドキュドラマであることは理解できるが、後述の通りこの8年の間にコロナを含めてあまりにも多くのことが起こりすぎたことが、仇となってしまった。次に、この映画だけ観れば"モルシ&ムスリム同胞団=悪、後任のシーシ&軍=救世主"のように描かれているが、その後のエジプトについて知っていれば全くそんなことはないどころか、監督たちが勇気を持って起こした行動が利用されただけだったということについて、本作品は全く描いていない。本作品が2013年に公開されていたならこの表現でも納得だが、公開までの8年間、その手のひら返しを間近で観てきたはずの監督がどうして描かないままセンチメンタルな内省で締めくくってしまったのだろうか。