きん

ちょっと思い出しただけのきんのネタバレレビュー・内容・結末

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

試写会は去年の春の「くれなずめ」ぶり。しかもこちらも同じく松居大悟監督の作品。映画鑑賞後に監督ご本人と永瀬さんから作品への想いや制作過程、秘話などを拝聴できて胸がいっぱい。

シアターから出た後、頭の中でクリープハイプさんの主題歌がずっと流れていた。イントロとサビが耳に残り、歌詞の語呂が心地よい曲ですごく好き。人が少ない夜の渋谷街でしばらく余韻に浸っていたくなって、ゆっくり歩きながら遠回りして帰った。

ストーリーは男女2人のある夏の1日を6年間を通して別れから出会いまで、時間を遡って描かれている。あの日のことをちょっと思い出して、そしてまた、日常が進んでいく。新感覚なラブストーリー。

別れる前の喧嘩。照生は自分の頭の中でモヤモヤをきちんと整理した上で会いたくて弱っているところを見せたくなくて、葉は力になりたくて全てを受け止めたくて。
元彼が色々抱えて連絡返さなかったのが同じく2週間で、2週間って長いよね。待てないよね。って共感した。(笑)

顔に付けたケーキのクリームを舐めながらのキス
休館日の水族館でダンスとかくれんぼとシロクマ
タクシーから降りようとしたときに突然恋愛映画のセリフのような告白とメーターを止めてそっと降りる運転手
シャッターの閉まった夜の商店街で尾崎世界観さんの弾き語りをバックに2人がダンスをして距離を縮めるシーン
水族館で感情が溢れ出すずぶ濡れの葉を照生が優しく抱きしめるシーン
あぁ、全部好きだなぁ。

2人の仲良いシーンが別れのシーンの後から来るため、こんなにも楽しそうでラブラブなのになぁとじんわり切ない気持ちも入り混じりながら観た。ぐわっとではなくじんわり、どこで涙が出たか思い出せないくらいそっと泣いた。

観葉植物たちに霧吹きしながら自分にも霧吹き。猫にえさやり。ラジオ体操の奇妙な腕回し。照生の毎朝のルーティンと猫の大きさや部屋の散らかり具合、買い溜めした消毒液で時系列を表すのがいい。

伊藤沙莉さんと池松壮亮さんの演技に期待して観に行ったけど期待以上。どこまでもナチュラルな演技で、描かれていない他の364日の照生と葉の日常も見たくなった。照生の真っ直ぐな所とかなんか惹かれるな。

ニューヨークの屋敷さんも良かった。軽い人かなと思ったらまさかの運命を感じてしまうピュアな役でニッコリ。
國村さんほっと安心するバーテン。成田凌さんもちょい役だったけどさすが馴染む演技。

見落としそうな景色
忘れかけた感覚
それらが丁寧に描写されていた。
思い出といっても実際に覚えているのは
何気ない会話やなんてことない風景で。
綺麗なシーンで終わらせない所も良い。

タクシーから見える夜の東京の街も綺麗。
けん引しながら撮影したらしい。

余白があって、会話のやり取りに面白みがあって、小道具や画角にこだわりが感じられて、音楽が良い。まさに好きが詰まっていた。もう一度見返したい作品。

コロナが明けた頃に、大変なご時世だったけどいいことも沢山あったな。とふと思い返すのかな。そしていいことの一つにこの作品があるんだろうな。

松居監督これまで恋愛ものを避けてこられて初挑戦らしい。今後も是非、恋愛ものも手掛けてください何卒お願いします。。

「ナイト・オン・ザ・プラネット」観よう。
きん

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