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ちょっと思い出しただけのれのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
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この映画の主人公はタクシーでもダンスでも二人でも主題歌でもなくたった“1日”で、余白として補完される“残りの364日”は思い出せたり思い出せなかったり、定かじゃなかったり美化されてたりするんだよなぁ。ほぼアドリブなく緻密に作り込む“映画における”松居節(演劇における松居節とはまた違う良さ)と、2つの“ナイトオンザプラネット”を汲む丁寧さ…「どこかで会ったことありましたっけ?」への含みが、距離とか過去とか今とかを浮き彫りにしてさ。それもなんか目の前の相手をちょっと思い出したときの台詞だったりするんだよね。名前は知らなかったり、人違いだったりするんだもの。
逆行する時間の中で揺るがずに愛を貫くベンチのジュンの存在は、変化するものとしないものの間にコントラストが付く仕掛け人という粋な計らい…しかもそこに永瀬正敏を置くというジャームッシュ作品へのリスペクト!他にも、カレンダー描写はまさに〈ナイト・オン・ザ・プラネット〉の世界時計みたいなカットで入るし、オムニバス形式の黒パン意識も感じるし。脇役の豪華さ具合とかもね(國村隼はビル・マーレイだろ…)シロクマと目が合う水族館デートの撮り方とか、尾崎世界観のトムウェイツ枠感とか、至るところに“ジャームッシュリスペクト”を散りばめながらも、でも、それでもめちゃくちゃ松居大悟作であることの強さがバチバチにかまされていて最高だった。ラスト商店街の長回し(二人と尾崎さんが交わらずに存在するカット)の重なっているようで別のレイヤー感、〈アイスと雨音〉のMOROHAから同じことやってくれているんだよなぁ。
ゴジゲンメンバーが全員出てくるのも微笑ましかったし、ちゃんとどこかに“わちゃわちゃ感”を盛り込んでくれるところも、あ〜やっぱり松居さんだなぁ〜と思うし。(成田凌の使い方が大正解。)これだから松居大悟という人の作るものが好きなのだ…と思わせてくれる。

松居さん「クリープハイプのナイトオンザプラネットが届いたときに「この曲が最後にかかる長編を撮りたい」と思った」ってラジオで言ってたけど、たしかに曲から内容を広げて出来たというより、この曲がエンドロールでかかるための映画だったな…と観賞後の納得感がある。いくつもの夜にしがみついて、同じだけの朝で溶かしていく6年だったな。でも6年分を凝縮した2時間じゃなくて、10〜20分くらい“思い出したこと”を2時間に拡げたみたいな映画だった…… 公開記念試写会当てたのマジで今年の運すべて使い切った
れ