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ちょっと思い出しただけのcinecoroのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.8
前情報でナイトオンザプラネットにオマージュを捧げたもので、伊藤沙莉がタクシー運転手で、ある二人の7月26日だけを描く、ということを知って、なんだかしゃらくせ〜な〜と思っていた自分を叱りたい。とても良かったし、観終えた後も場面を細々思い返しては人と過ごした時間のかけがえのなさに酸っぱい想いを噛み締めることができる。何年、と表示がされるわけではなくパタパタ時計(何と呼ぶ?)が映されるだけなので観ている方は探るしかないのが良い効果になっていたわけだけど出来れば前情報を何も入れずにわけのわからないまま見てみたかった。
伊藤沙莉の運転手姿が素敵というところは揺らぐことないけど、池松壮亮のいつにも増してねっとりとした喋り方が、ダンサーを目指していた彼と、彼に惹かれた彼女の繊細で愛しさの溢れる時間を納得させるのに功を奏していたと思う。
踊るためならなんだって我慢できたよねえというケーキのシーン(7月26日は照生の誕生日だから、自然とケーキを食べるシーンが何度となく印象的に使われていてうまい!)、自分はケーキ我慢できるくらい頑張ってきたことがあっただろうか、となんでもそこそこにがんばってきた過去を顧みてちょっと苦しくなった。
恋愛映画と言い切れない周辺のひとたちの時世の移ろいに揺らぐ様が風景に溶けきれない形で描かれていて切なさに拍車をかける。この2人のその後とか、30代手前の結婚するとかしないとか、恋愛というほんと他人から見たらどうでも良いことを映画に昇華させるってかなりレベルの高い事なのでは、と最近思う。
ほんと昔のなんやかやって今の自分の生活にはなんの影響もないのに確実に人生には関わっていてふとした時にその時の感情まで蘇って心に波風をたてたりするので、ちょっと思い出しただけって、言い得て妙なタイトルだ。若い頃は観なかったけど、ほんと最近の日本の恋愛映画、良い雰囲気をじわじわ出してきてて楽しい。
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