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イニシェリン島の精霊のcinecoroのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.8
マーティン・マクドナーの新作絶対観る絶対観る…と念じながら待っていた甲斐あって公開後割とすぐに行けた…もうすごい好き…と思いつつも決して解決しない問いがテーマになっていたので悶々としてる。
舞台としているアラン諸島、イニシェリン島という架空の島(格子状に岩壁が張りめぐされた独特の土地)、神秘的とも言える自然の中にいても感じる閉塞感と、新宿の雑踏を歩いても感じる侘しさとが同じとは言わないまでも、人間が内に抱える寂寞とした思いってえのは時代をこえて場所をこえていつでも忍び込んでくるものなのだな…

前半ニヤニヤしながら観ていたら、事態はだんだん笑えない方向に。2人の諍いが戦争のメタファーであるという事実は内からも外からも言われているからそうなのだろう、ということでこの映画で突出しているのはドミニクの存在感。(あと素晴らしい動物たち!)ドミニクの愚者と聖者の眼差しを併せ持つ矛盾した存在をバリー・コーガンが見事に演じきっていて最高か…!
シボーンにぎこちなく告白する場面なんてもうたまらない。パードリックが事態が進行するにつれて本来の愚鈍なまでの優しさを失っていると指摘するのも彼だし。
そして、シボーンはこの島で唯一の"去る人"、出て行く人として描かれている。だって親友と絶交までして残りの人生を追求したいと言っているコルムでさえ島を出ることはしないのに(島にいる限り嫌でもパードリックと毎日会っちゃう笑)彼女は去った。シボーンが唯一の希望として描かれてもいいはずなのに、残されたパードリックにとっては喪失でしかなく、ふりかかるふたつの死によってもはや憎悪となったパードリックからコルムへの思いが、すごく映画的とも言えるひとつのイメージとして文字通り炎上する。このときの馬の眼差しと言ったら!パードリックは家の中は見ないと言っていたのに馬に一瞬見つめられて思い返して窓に戻るんですよねーここたまらなかった。
最初に戻ると冒頭からもうコルムがつむじを曲げていて訳がわからないのに、僅かなやり取りからふたりがそれまでどんな日常を営んできたか、コルムの芸術に対する興味や外に開かれた関心がしみじみとわかるような作りが見事。コリン・ファレルが(コリン・ファレルだよ?!)本当に島から出たことのない朴訥な人物に見えるからおかしかった…。
そしてラストの解決に向かわない現実とも地続きの問題提起よ…。
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