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私は貝になりたいのsingerのレビュー・感想・評価

私は貝になりたい(2008年製作の映画)
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劇場でエンドロールが流れる中、どうやってこの余韻から抜け出して良いかわからなくなって、
しばらく動けずにいた。言葉も出ない。

不条理な結末を迎えるドラマに、例えようの無い重たい感情がズッシリと残る。
観ることは観た。
でも、それが果たして良い映画だったのかと言われると、すぐに即答出来ずにいて、今でも本当はよくわからなかったりする。

映画の感想というのは、結局は面白かったか、そうでなかったか。
殆どの映画はそのどちらかに自分の意見が落ち着くことが多いんですけど、この映画はそのどちらにも落ち着かない。
面白かったからという理由で、誰かに薦めることも出来ないし、
面白くないから、誰かが観ようとするのを止めるようなこともない。

でも、観る価値はあったと思いました。

中居正広が本当に凄かった。
TVで頻繁に見掛けるタレントなだけに、その普段のイメージを塗り替えるのは容易では無いと思うんですが、
終盤の鬼気迫る演技は、「中居クン」ではなく、豊松と重なって見えたし、
演技の良し悪しは別にしても、真剣に役と向き合う姿勢が凄く伝わってきました。
これだけの狂気や淀んだ感情を内包した豊松の思いを、
観る者に演技を通じて伝えようとするのは、とても困難な課題だったと思うんですよね。
国民的アイドルグループのリーダーが挑むにはリスクが高すぎるようにも思うし、
失敗したら物凄い数の批判に晒されかねないくらい、この豊松という役が背負っているものは大きくて。

それに挑んだこと。
そして、一生懸命に取り組んだこと。

その結果は、しっかりと作品に焼き付いていると思うし、観る者にも伝わったと思います。
評価に値する、素晴らしい演技でした。

それだけに、草彅剛の友情出演は、少し現実に引き戻されるような感じでマイナスだったようにも思いました。
草彅は抑制の利いた演技で、ストーリーのポイントとなる良い演技を見せていたとは思うんですが、
やっぱりSMAPの二人が脳裏に浮かんでしまうので、作品の流れを一旦止めてしまうような気もしました。

後、Mr.Childrenの主題歌、「花の匂い」も作品の終幕には相応しく無くて違和感がありましたね。
楽曲の質以前の話で、この厳粛な作品の幕を引くのに桜井一寿の歌声は軽々し過ぎる気がしました。

観ていて気になったのは、その2点位。
2時間19分という長さは、さほど気になりませんでした。

映像はとて迫力がありましたね。
海の映像は時に美しく、時に荒々しく、その壮大な風景はとても見応えがありました。

「お父さんは生まれ変わっても人間にはなりたくありません、人間なんて嫌だ。
もし生まれ変わっても牛か馬の方いい。
いや、牛や馬ならまた人間にひどい目に逢わされる。

どうしても生まれ変わらなければならないのなら、いっそ深い海の底の貝にでも。

そうだ貝がいい。

貝だったら深い海の底でへばりついていればいいからなんの心配もありません。
深い海の底だったら戦争もない、兵隊に取られることも無い。
房江や賢一のこと事を心配することもない
どうしても生まれ変わらなければならないなら、私は貝になりたい」

自分は、この以前に映像化された作品に触れずに今まで居ただけに、
ラストのモノローグはとてつもなく強烈でした。
今でもこの余韻を何処に落ち着けて良いのかわからないんですが、
思うことは沢山あって、作品の放つメッセージはしっかりと自分の心に刻むことが出来たと思います。
戦争の悲惨さ。
豊松の無念。
それを通じて、今の時代がいかに平和で、恵まれているのかを痛感する。
どんなに時代を重ねても忘れてはいけないこと。
それを時々思い返す機会は、やっぱり必要だと思うし、
だからこそ、人の心を揺さぶる物語、語り継がれるべき物語は、いつの時代でも綴られるのだなと。

気分はあまり良くないけど、考えを重ねて解釈しようとしていく行為に嫌悪感は無い。
だから、やっぱり観て良かったなと思いました。
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🎦こちらは2008年12月20日にブログに投稿したレビューです。
当時、あまりに衝撃的な作品だったので、落ち着いたらもう一度観返して、しっかりと咀嚼したいと思っていたのですが、やっぱりどうも気が乗らないまま、10年以上の月日が流れてしまいました。
そして、今となっても、多分この先もこの作品をもう一度観返すのは、凄く体力が要りそうで、もう、観返す事は無さそうな気さえする、それ位の衝撃が心にズッシリと残った作品です。
そして、俳優・中居正広の集大成のような作品でもあるかなぁと。
本当に、この作品の中居くんの演技は、鬼気迫るものがあって、魂が燃えいてるような、そんな気さえしたのを覚えています。
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