るるびっち

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島のるるびっちのレビュー・感想・評価

2.9
ドラマが解っていない。
人間というのは、矛盾した生き物だ。
ドラマはそうした人間の矛盾を描き出すものであり、矛盾した人間同士の対立なのだ。

本作では、オリジナルにあったドアンの矛盾という毒気が抜かれている。臭みを抜いて食べやすくした加工食品のようだ。
一応スパイという別の矛盾を加えているが、捻っているだけでオリジナル程の効果はない。

ジオンを裏切り、戦争孤児を守って島で生きているドアン。
何故そんなことをしているのか。良い人だからではない。
そこにドアンの矛盾がある。
それはドアンこそが、子供たちの親を殺した張本人だからだ。
それをオリジナルではドアンの抱える罪として、物語のクライマックスに語られる。
武器も無いのに不利な戦いに命がけで敵に組みつくことで、彼が全身で自分の抱えた罪と格闘していることを30分のアニメで表現していた。
武器を持って、カッコ良く闘ってはイカンのだ。
そんな戦い方では、罪の贖いにならない。

そういう毒を抜いて、ヒーロー・ドアンにしてしまうと意味がない。
何故なら、ドアンの矛盾は戦争の矛盾と直結しているからだ。
兵士たちは正義だと思って戦っている、誰も悪に加担しているつもりは無い。しかし結果は、多くの悲劇を生む。
ドアン個人の矛盾を描くことは、戦争の矛盾を描くことになるのだ。
それを善人にしたら、唯の偽善を描くことになってしまう。
ククルス・ドアンはオリジナルの悩める男ではなく、唯の強い偽善者になってしまった。ドラマが解っていない。

アムロも毒を抜かれて、素直な少年になっている。
シリーズが長くなると、最初は毒々しいキャラクターが親しみやすく丸くなるものだが、ガンダムも長い時間を経て、アムロが仏様みたいに美化されている。
カイ・シデンより嫌な奴だから、アムロって!
元々引っ込み思案なのが、自分だけがガンダムを操れると自意識過剰になり、大人の都合が嫌いで、見下した皮肉な発言をするから嫌われてイジけるという、面倒臭い奴なの!! 
これまた飲み込み易くキャラ変してる。流動食アムロだ。サラサラ~。
オリジナルでは、「子供を騙して手先に使ってる」と反論して幼い子供にキレられる。
幼児を怒らせるほど、嫌な奴なんだよアムロは!!
幼児を怒らすって中々やで。
子供より子供なのよ~。

また人と馴染もうとしない頑固さも毒抜きされている。
オリジナルではコア・ファイターを隠され、アムロは助けられた礼も言わず共同作業も無視して、独り黙々と隠された機体を探す。
その様は頑固で意地っ張りだ。(本作も形だけ踏襲している)
アムロの面倒を見ている年長の少女が、心配で様子を見に来ると、
「偵察にきたのか」と言う。ガキでしょ?
「あなたには、あの夕陽の美しさも解らないの?」と生活の大切さを問う少女。それに対するアムロの返答。
「戦いに美しさなど必要ないよ、気を許せば負けるんだ」
これがアムロよ~。頑なな否定。
だから本作のように、簡単に出された水を飲んだり食事を食べたりする素直な奴じゃないから。
「毒でも入ってるんじゃないですか」位は言う奴だよ。
子供にも嫌われ少女にも叩かれる様な、嫌なまぜっかえしをする孤独な奴なの!! 大人の都合や綺麗ごとが大嫌い。それがアムロ。
だからこそ、ヒネた思春期の中高生が夢中になったのよ。
まあ皆シャアが好きで、アムロを好きな奴は少なかったけどね。主人公なのに。

子供たちも画一的。子供という、役割を演じているに過ぎず記号的。
わざわざ人数を増やす意味はない。
個性があるなら、アムロを敵視する奴、逆にアムロに構う奴と様々な反応をするハズだが、皆同一の反応。

オリジナルでも、自分のせいで子供を戦いに巻き込むと気付くドアン。
30分なので省略しているが、あの時ドアンは子供達と別れようとしたのではないか?
それを防ぐためにアムロが発したのが、
「あなたの中の戦いの匂いを消させて下さい」
なのだと思う。だからアムロはあの行動に出たのだ。

夕陽の美しさも解らないカチコチの戦士アムロが、ドアンの生き様を見て戦争の矛盾に気付いた瞬間である。
口で能書きを言うのではなく、武器もないのに無謀に突進し、全身で罪の贖い方をアムロに示したドアン。
大人に皮肉ばかり言っていたアムロが、素直に大人の責任の取り方に感動した瞬間だ。素直じゃない奴が、素直に感じたのが重要なのだよ!
そして、それでもドアンとは違う生き方を選んだアムロの成長の話だったのだ。オリジナルでは。

ドアンの罪もキチンと描いていないし、必要な部分が描けていない。
その癖、ヤギの暴走とか本来この時点では居なかったスレッガーの復活とか、無駄なことばかりに時間を費やしている。
夕陽の美しさとか、大人を見下しているアムロが大人に感じ入る所、それでもドアンと違う生き方を選ぶ戦争のやるせなさ。
たった30分(CM等抜くと正味22分程)のTVアニメでやれていたことが、まったく出来ていない。
結局、戦争と平和という本作の根っこの部分を、制作人はまったく理解していなかったのではないか?
作画が良くなっても、中身が無くなったら意味がない。
るるびっち

るるびっち