紅梅シュプレヒコール

雨を告げる漂流団地の紅梅シュプレヒコールのレビュー・感想・評価

雨を告げる漂流団地(2022年製作の映画)
3.6
「ペンギン・ハイウェイ」「泣きたい私は猫をかぶる」につづくスタジオコロリド制作長編アニメーション第3作目

上記した2作は観ており、コロリドのアニメ制作の能力の高さは知っていたので少なからず期待はしていた作品

個人的には十分楽しんで観られたので、フィルマークスでの平均点がやや低め(3・2)であることに驚いている

確かに悪い点も挙げればあるが、良い点も沢山あるので点数から判断して尻込みせずに観てみて欲しい一作である

今作がどのような物語かと簡単に説明するならば「漂流教室」(もっと辿れば「蠅の王」)の団地版となってしまうのだが、ただの二番煎じにせずに上手いこと換骨奪胎した、しっかりとオリジナリティを持った作品に仕上がっている

可愛らしいキャラクターが映るポスターやサムネイルから児童向けの作品かと思う人もいるかもしれないが、実際には大人に向けられた脚本になっているのがコロリド作品の特徴だ

何故、今作が大人に向けられた作品と言えるのかというと、今作は観るもののノスタルジーを喚起させる<思い出映画>だからだ

諸行無常の我々の生きる世界ではあらゆるモノが時間と共に失われていく

思い出の場所や親しかった人を喪う経験は誰しもが少なからず経験しているはずだ

だが自己防衛のためにも悲しい記憶は徐々に薄れていき、多くの記憶は遠い日の過去になっていく

今作ではそんな埋もれていた記憶を呼び覚まし、「私にもこんな場所があったな」と懐かしい気持ちを味合わせてくれる

そしてモノは無くなろうとそこに紐づけられた楽しかった記憶、苦い記憶は決して無にはならず、それらを抱えて私たちは生きていく他ないのだという前向きな気持ちにさせてくれる気持ちの良さが今作にはある

もちろん作画は見事だし、ハラハラするような盛り上がりどころもしっかりとあり十分画的にも見応えのある作品になっているし、大人向けとは言ったものの子どもでも楽しめるジュブナイル活劇にはなっているので家族で一緒に観ても良いのではないだろうか

ただ個人的に惜しいと感じたのは作品時間がやや長く、所々で冗長さを感じてしまうところ

もっと物語を簡潔にして15分程でも削ることができたならば、もう少し観易い作品になっただろうなと思う