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マクベスのbibooのネタバレレビュー・内容・結末

マクベス(2021年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

全編モノクロで構成されたシンプルだけど洗練されたバランスとセンスに満ちた空間デザインがとにかく目を見張るほど美しい。監督が、演劇と近いストーリーではあるが、あくまでも映画であることに注力し環境を抽象化したそうで、デザイナーにも「城ではなく城のアイデアがほしい」というような提案があったそう。具体的なビジュアルインスピレーションには以下のモノクロ映画を参考にしたらしい。

・裁かるるジャンヌ
・サンライズ(1927)
・狩人の夜
・ニーベルンゲン (Die Nibelunge)

その提案をもとに、ベテランのステファン・デシャントが10週間で33セットのデザインから制作まで行ったそう。ステファン曰くかなりスケジュールがタイトできつかったそうだけど、テーマともリンクする“光と影”が印象的なセットが本当に素晴らしかった。

閉ざされた1つの空間で繰り広げられるシーンが圧倒的に多いので演劇っぽさも感じるんだけど、フェードインアウトをうまく使った編集効果によって狭く見えないし、むしろその世界観に吸い寄せられるような演出は映画にしかできない表現だったと思う。モノクロだから切り替えがスムーズで視覚にスッと空間が入ってくる。配信で納めるのはもったいないほど、大画面で見たい美しさだと思った。
原作は未読だけど、その画面演出と、詩的で難しいセリフが大幅にカットされてたことでシェイクスピア初心者にも入り込みやすい映画になってた。大幅にカットされてたにしても一言一言を結構難しく言ってたから、全部読むと相当なんだろうな。ただ、すっごい細かいことなんだけど、Apple TV+の翻訳だと魔女の一人称が「あたし」なのが若干気になった。

1時間40分くらいのコンパクトな尺だから、ある程度端折られてることで、マクベスの頼りない面のほうが強めに感じられてたんだけど、クライマックスのシーワードとの闘いのときに劇中初めてちゃんと手さばきを見て、「あっ、こいつちゃんと強い奴だ」となった。目にも留まらぬ速さの剣捌きに、3回くらい巻き戻してしまった。でも最後落とした王冠をかぶろうとしたところでやられるオチが、返り討ちに合ってしまうマクベスの人間性の隙を実感した。

原作だと脇役らしいロスが本作では裏回し的な立場で、こういう権力争いで一番厄介なしたたかで侮れんやつになってた。
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