九月

リコリス・ピザの九月のレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.7
普段はあまり好んで観ることはない、恋愛を中心に描いた映画、そして名前はよく聞くけど作品を観たことがないポール・トーマス・アンダーソン監督。すごく良さそうな雰囲気ではあるけれど、自分には合うかどうか…少しドキドキしながらも、楽しみにしていた本作。
この暑い夏に観て、とても元気が出た。疾走感や爽快感が心地良かった。

映像の雰囲気や色合い、音楽から伝わってくる70年代のアメリカや、爽やかな夏の空気感に、冒頭からどっぷり浸かった。15歳のゲイリーと25歳のアラナ。ゲイリーの一目惚れからこの恋は始まり、傍から見るとそれはかなり気まぐれなものに映った。好きになった相手に同じように好きになってもらうなんて、そんなうまくいくわけないやん…といつもは穿った見方をしてしまうのだけれど、あ!やっぱりそんなにうまくはいかない!
主人公たちの若さと一直線さがひたすらに眩しくて、そしてどこまでも自分勝手で愚かで馬鹿馬鹿しく、目を瞑りたくもなるのにしかと見届けた。

年上の女性であるアラナに対して、あんなクソガキ放っておけばいいのに!と乱暴に思ってしまう時と、あれだけ一直線に好きでいてくれる人を拒む理由なんてない気がする時と、両方あった。
ゲイリーは真っ直ぐで無限の可能性を秘めているように思えるけど、やっぱり子どもっぽくて煩わしい。
そんな彼と一緒にまだまだ若いまま突っ走ることも、彼のことなんて気にせず落ち着いた大人になることも自分次第で、どこにいてものらりくらりとやっていけそうなアラナ。

ふたりの絶妙なすれ違いがずっと続いていき、あれは何だったんだ?何を見せられているのか?と正直困惑、そういえばブラッドリー・クーパー全然出てこないけどまさか見落としてる?もう終わるのかな…?と思い始めたところからの盛り上がりがすごかった。
どんな役なのか全然知らなかったブラッドリー・クーパーの暴れっぷりがツボすぎてだいぶ笑ってしまった。あのキャラクターの登場シーンでも際立っていた、すれ違いや噛み合わなさ。第三者からするともどかしく感じがちだけれど、それがかえって清々しかった。

この夏、ふとした時に思い出すことになりそうな情景がたくさん詰まっていた。この映画のおかげで、暑くて気だるい夏も乗り切れそう。
九月

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