2004年の「マイ・ボディガード」から20年、メキシコは未だ誘拐ビジネスが横行し、年間6万件にも上るという。ハリウッドならリーアム・ニーソンがやるような娘捜索を、ただの(それも娘から“いつも言いなり”と言われる)母親が行う。原題は「市民」の意。
暴力とサスペンスに溢れているがあくまで母親目線のドラマ作品として撮られているが、それもそのはず。実話ベースの作品だから驚愕する。
主人公のモデルになった女性は後に反誘拐ビジネスの活動家となり、最期は母の日に暗殺されたとのこと。気安く面白いなんて口にできない緊張感が確かにあった。
監督はこれが長編デビュー作のテオドラ・アナ・ミハイ。彼女も幼少期にチャウシェスク政権から亡命した過去を持つ。製作陣には「ある子供」のダルデンヌ兄弟、「4ヶ月、3週と2日」のクリスティアン・ムンジウ、「或る終焉」のミシェル・フランコが名を連ねる。
言われてみれば、彼らの作品のように映像に泥臭さとどうしようもない絶望感、無情な現実になんとか抗う生命力が満ちていた。
ただのエンタメ作でもアートムービーでもない、直球の渾身の社会派作品が持つエネルギーは、今後の生き方に影響を与える一作になった。