りょう

マイスモールランドのりょうのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
5.0
 スペースFS汐留の試写会で観ました。とにかく嵐莉菜さんの美貌にびっくりで、退場時の舞台脇でしっかり会釈していた奥平大兼さんも好印象でした。脚本・演出の川和田恵真監督は、新人らしからぬしっかりした作品に仕上げてきたと思います。小説版も執筆されているようで、是枝裕和監督のもとでデビューした西川美和監督との共通性を感じます。

 非常に軽々しい言いぶりですが、「外国人あるある」や「入管あるある」が随所に描かれています(仮放免中は就労できない、在留資格がないと医者にかかれない、教育現場の外国人の増加、日本語しかしゃべれない外国籍の子どもが本国に送還されたらどうなるか…等々)。監督の性格がとても優しいからかもしれませんが、この作品の入管批判はソフトでさりげなく、本質的なテーマになり得る難民問題は、あくまで一人の少女が過酷な境遇で自分の居場所を見つける物語の背景として描かれている印象がありました。しかもヤングケアラーや外国人コミュニティの問題にも遭遇します。
 そうしたサーリャの苦難が全編にわたって描かれているので、とても難しい役柄であるにもかかわらず、それを映画初出演・初主演でこなした嵐莉菜さんは大健闘です。一方で、聡太との会話がいい意味でテンポ悪くぎこちなかったりして、それはそれで必要な演出だったはずですが、微妙な沈黙を紡ぐ表情やしぐさは、あの若い2人に演じさせるには酷だったように思います。そうしたシーンの不自然さで作品の印象に影響してしまったのはとても残念でした。
 個人的には、国境を描いた映画はたくさん観たと思いますが、県境をモチーフにしたシーンを初めて観たような気がします。橋の上で県境の標識に2人でいたずらする場面がとても斬新でした。ちなみに、サーリャの父親マズルム役の男性は、どうにもプロの俳優とは思えなかったんですが、実は妹弟役の2人も含めて嵐莉菜さんの実際の家族だそうです。

 この作品の公開が意図せずタイムリーになったことは、スリランカのウィシュマ・サンダマリさんの事件をはじめとする問題が社会的に認知されている背景を踏まえれば、ある意味必然です。さらにこの国の首相は先日、ウクライナからの避難民を積極的に救済する一方で、これまでのクルド、シリア、アフガニスタン、ミャンマーなどからの難民の不認定は「たちまちには変更しない」ということを公然と発言しました。これを人種差別と呼ばずに何と言えばいいのでしょうか。
 あえて誤解を恐れずに言えば、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに日本の入管行政が各国からの批判にさらされ、国会や政府がとことん追いつめられればいいと思います。この作品もそのきかっけの一つになることを期待してスコアは満点にしました。
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