まるこ

マイスモールランドのまるこのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
5.0
好きな人と手をはじめて手をつないだとき。
極論、この映画はそれだけですら良いとすら思った。

大なり小なり、『はじめて手をつなぐ』という行為の前には大抵ハードルがあるはず。

相手はどう思う?とか、もしこの手を掴んで(掴まれて)なんか違うって思っちゃったら?とか。

本作では、所謂『大なり』にあたるんだろう在日クルド人と日本人というふたつのバックグラウンドの違いと分断が根底に立ち塞がります。

主人公のサーリャは、物心ついてから父に連れられ日本の埼玉に逃れた在日クルド人の女子高校生。
母を亡くし、残った家族は難民申請中。
父は帰郷したら即刑務所だ。

長女らしくサーリャは努力の人で日本語も猛勉強で獲得。
いまや現代のティーン語を流暢に話し、『さっちゃん』と呼ぶ親友たちもいる。

勉強、家事はもとより、大学進学用のバイト、クルド人たちの翻訳に通訳と、大忙し。
ガンジー並みの良い子、さっちゃん。

一方、バイト先の同僚、崎山くんはさっちゃんの出生を説明しても『クルドってワールドカップでてる?』って言うような普通の東京の高校生男子。大阪の美大入学を目指し絵を描きまくるのが好き。

川を挟んだ県境の町、出会ったふたりは一緒に絵を描き、分断の象徴とも思える県境の看板にいたずらで手形を押す。

しかし、分断はふたりをそう簡単には許してはくれない。難民申請が却下され、収監されてしまう父親。家に残され、働くことも県外にでることも基本許されないクルド人のこどもたち。

家族を守り生きるには、さっちゃんの『手』が必要だ。
家計簿で小銭を数え、バイトで廃棄弁当の仕分けをし、崎山くんの家に言ったらお母さんの手伝いでキュウリを切る(あのキュウリ食卓に出ていた?)。

しかし一方、「苦労した方が報われるから」と三千円で彼女から搾取をしようとする『手』、同情する人々が裏の意図もありつつお金を差し出す『手』と対峙もしなければならない。

そして、いつも傍には分断を象徴するように県境の川が重くのしかかる。

しかも、収監される直前、崎山くんとのつきあいを心配した父親が自転車を隠してしまった。

唯一川を楽に超越できる、大学資金のバイトに通うための、希望のための生活のツールなのに、、、。

崎山くんはやっぱりこの事態の本当のところがよくわからない。
だからその手でさっちゃんが一番困ることをやってしまう。

それでも、ふたりは手を伸ばすのだ。
手はツールだ。人間と繋がなくても余裕シャクシャクで生きていける。

だからこそ、この好意を愛と呼ばずにいられない。


難民問題?難しいテーマだから、と思ってる人にこそ見てほしい。

好きな人と手をつなぐこと。
たったそれだけ。

でも、その体感はイマジナリーを軽々と超えていける。そんくらい幸せなこと。

そして、分断の象徴の水とさっちゃんが愛された手と、親からの愛の言葉が全部詰まったラストシーンは必見。

素晴らしい作品でした。
伏線回収にもう一度観なきゃ。
まるこ

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