無影

クナシリの無影のレビュー・感想・評価

クナシリ(2019年製作の映画)
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国後島の地中に埋められた日本人の遺物を違法に発掘しては換金する「黒い発掘人」の2人を中心に、国後島の過去と現状を映し出したドキュメンタリー。
先進的な社会を築いたことを理由に日本の戦前戦時中の他国の占領統治を正当化するような言説にはまったく合理性はありませんが、それでも、インフラや雇用の面で国後島の住民の生活がより充実していたのは日本の統治時代であったようですね。ただ、現在日本が再度この島を統治することになっても、住民の生活水準が向上するかという点では住民も懐疑的な様子。ある人は日本は周辺海域における漁業上の権益が欲しいだけでここに住みはしないと一蹴し、ある人は日本人と共存することで雇用が創出されるのにと嘆いていました。確かに、日ロが平和的な関係を築いてこの島を両国の国民が自由に行き来できるようになったら住民の生活が豊かになるとはとても言い切れないと思います。
しかし、1つ言えるのは、国が人々の自由な交流を阻害すれば、そこに生きる人々の暮らしを破壊しかねないということです。この映画で描かれているのは、戦後国後島を占領したソ連(ロシア)が、そこに根付いていた日本人の文化の継受に失敗し、本来なら今もあり得た生活を失ってしまった様子です。もし日本が戦争を起こさず、戦後ソ連が住民を強制退去させていなければ、日ロ両国民は(紛争が起きないという保証はないが、それでもなお)共存して、国後島に築かれていた暮らしは失われずに済んだはずです。戦後はソ連が占領したのだから日本人と共存する余地がないと思われる方もいるかもしれませんが、外国人を国内に留めるか否かは(難民等一部例外はあるにせよ)政策判断によるので、ソ連が国後島を占領統治したとしても、日本人を追い出さないという決定をすることもできました。それでも、ソ連は日本人を強制退去させることを選んだ。国後島の暮らしは、日本とソ連(ロシア)という国家の存在により妨げられてしまったのです。
最後、針の進まない時計の場面がグッと来ました。プーチンの「御真影」とロシア国旗を頂きながら、領土問題などない、日本と平和条約など結ぶ必要がないと口にする国後島の知事。日本も同様の姿勢ですが、このように国が住民と外の自由な交流を妨害し続ける限り、この島の時間は、あの時計のように進まないままでしょうね。
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