ベカオースター

オッペンハイマーのベカオースターのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
米国11/21盤発売配信開始なのに現時点で日本公開未定なら解禁待っての英語視聴(有識者助力で日本語翻訳したけど)。被爆地に生まれ平和教育で8月カレンダーの黒滲みの日に登校し、陽光滾る校庭での体験談に目眩し、巡る資料館で嘔吐トラウマを耐えた幼少期を過ごし、けれど目を背ける事はせず浪漫を取り戻した瓦礫の街に関する史実文献を読み漁ってきた地元愛ある己にはまるで踏絵。プロメテウスの火を核兵器の暗喩として綴り脅威に注視して来た身として、常々に我が眼球の中に幻視してきた原子のミクロ/マクロとのシンクロに打ち震えました。モノクロとカラーの混在はコミュニストでもアナキストでもなく純粋に量子力学を追求した(結果ファシストと戦った)原爆の父オッペンハイマーが起こしてしまった超新星に喩えた破壊の日を境にした色喪失心情と開発情熱の陰陽の引用かなと思ったけれど、単に米原子力委員会委員長ルイス(ロバート・ダウニー・Jr)暗躍パートの入れ子構造で、それ含め分断し跳躍する時間軸と場面転換が難解さの要因に。けれど誰が誰なのか分からなくなる複雑な相関図を顔アップで繋ぐ演出は流石。スパイク・リーも苦言を呈した幾万もの魂が蒸発した我が故郷の凄惨を直接描写していない事は残念だけど、爛れた皮膚と炭化した遺骸の幻影2カットで悟らせる監督の力量が素晴らしい。投下の正当性主張ではなく苦悩とや悔恨や指示者/支持者の愚かさを露呈させた物語なのに日本がセンシティブ過敏で配給を見送っているのか解せず。ネガキャン沈静化アカデミー賞時期特需狙い皮算用寝かせの下世話な懐事情かと邪推。個人的にノーラン作品はずっと初日公開イン複数回劇場通い完全理解の無謀に挑戦しているので今作の日本上映を切に願います。スクリーンで再び対峙し感動を上書きしたいです。

(どうでもいい余談ですがケイシー・アフレックやデイン・デハーン出ていて歓喜。キリアン・マーフィーが割と小さい。マット・デイモンがジェシー・プレモンス化してる。フローレンス・ピューのオッパッピューも見れます)

ーーーーーーーーーーーーーーーー

追記

二回目劇場鑑賞。既に米国版で見てるけどファースト・インプレッションを超えた大感動。知的好奇心という布で磨き上げた泥団子のピカピカ輝きがドンと砕けるとき世界から戦争が終わるとオッペンハイマーは考えた。だけど蛮族はより大きく眩しい水晶玉を求め国家が推奨する中で、彼の栄光と悔恨と失墜の時が乱れ、そして世界からは戦争が消えることはなかった今も。ロスアラモス国立研究所が舞台でマンハッタン計画がメインなのに悪魔的ジョン・フォン・ノイマン(Dr.ストレンジラブのモデル)が出てない点で端から凄惨さや投下の正当性(開発の正当性は主張している)を書こうとしておらず、それを求めてもいけない。そもそもそんな残酷な史実は夏休みに登校し焦げた遺骸やケロイドの皮膚や溶けた鉄と融合した骨や徹底的に破壊尽くされた街の光景がたっぷり載った冊子を渡され「原爆許すまじ」を唱歌させたれた被爆地少年少女は漆黒の想い出として心に抱えているし。それが周知でない人は予備学習や想像力での補完が必要な難解作だなあって。まあノーラン映画だから充分スペクタルでダイナミックなんですけどね。