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オッペンハイマーのsazanamiのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
通常版を見たのだけど、映像の美しさと音のすごさは抜きん出ていました。これをIMAXで見たらどれほどすさまじかったか。
3つの時系列を行き来し、登場人物も多い。登場する科学者も知らない人の方が多かったので、歴史の流れと関連人物を予習してから見に行くべきだったかもしれません。

オッペンハイマーは、非常にnaiveな人だったんですね。
「自分は素晴らしい頭脳を持ち、それがこれだけ素晴らしい(すさまじい)ことを考えたのだから、みんな素直にひれ伏して言うことを聞いてくれる、自分の思い通りになる」という思いがあったのでしょう。
でも結果的に、その純粋さは政治の世界には通じず、翻弄されてしまった。
ただ、それは彼だけのことではなく「すさまじい才能の持ち主がその分野だけに専念したいと思っているからこそ、他人に利用されたり搾取されてしまう」という、これまで何度でも繰り返されてきた悲劇をなぞっているだけだとも感じます。

原爆が落ちた後の被害の実態が映像に出ないのは、アメリカ映画である以上そういう描写になるだろうなとは思います(いい悪いはまた別の話です)。映画のテーマが原子爆弾そのものではなく、それを作り出したオッペンハイマー自身であれば、確かに被害そのものを描き出すのではなく、それを見たオッペンハイマーの表情のみが映されるのも、わからないではない。
ただ気になったのはそこではなく、オッペンハイマーは苦悩しながらも結局「安全に痛い」だけに見えたこと。
もちろん公職追放の憂き目にあったりはしているけど、ジーンの末路やそれを知ったオッペンハイマーに泣きつかれたキティ、広島や長崎の被害者のことを考えると、そのnaiveさに微妙な気持ちになったのは確かです。
自分が意地の悪い見方しているとは思います。
ただ視点を変えれば、彼のどうしようもない部分も隠さず描き出した、誠実な伝記映画であることは確かだと思います。

全くの余談ですが。
映画泥棒と映倫の映像が流れ、いよいよ本編というときに、斜め後ろの男性が「あと3時間か…」とつぶやいていました。
気持ちはわかります。レイトショーだったしね。
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